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13.何もできない僕

6月、俺は19になった。 誕生日前の週末に、政実や仲のいい友人達が 誕生日をかねて飲み会をしてくれた。 誕生日当日は、ど平日だったから 普通に仕事に行き、特に何もなく過ごした。 深夜、日にちをまたいだ瞬間に 政実からの、おめでとうメッセージが有り 毎年の事なのに、ホワホワ嬉しくて 寝付けなくなった。 幸せな気持ちの時は無駄に自信が沸いてくる。 軽い感じで告白したら、意外と じゃぁ、試してみる?って感じで うまくいったりして…。 そうだ、いける!俺いける! そう思って決心し目を閉じ、朝がくると ー いけるわけない…。 と思い直す。 告白の前に、まずΩだと伝えるのが先だ…。 …どうやったら 退かれず伝えられるだろう…。 なんて…。 この不毛な脳内1人会議を もう何度繰り返したか分からない。 一歩踏み出す勇気がなかなか出ない。 それくらい、今の政実との関係は平和で幸せで。 捨てがたかった。 ・ ・ そんなある日、俺は仕事の合間に 事務所に呼ばれた。 パーテンションでしきられただけの簡素な 応接室もどきの部屋に通されて まさかリストラされるのでは…と 心臓がバクバク鳴った。 少し待つと、人事の担当者と、さらに上の 役員さんがそろって現れた。 クビだったらどうしよう…と 青ざめている俺に、二人が伝えてきたのは 意外な内容だった。 (え、社員?) 「うんそう!来年の試験受けてみないかって」 俺は家に帰って、真っ先に政実に電話した。 (やったじゃん!) 休まず、遅刻もせず。勤務態度も真面目で 仕事の覚えも早い、と、班長たちからの推薦で 契約社員からステップアップするチャンスを もらえたのだ。 一般常識問題の筆記と、面接、他にもとらなければ いけない資格もあるけど、受けて損はない。 (受かったら焼き肉だな!) 「おごり?」 (もちろん…!受かったらな、頑張れよ!) 政実からの応援も、もらえたのだ。 そりゃ頑張れる!! 昨年は母親の失踪事件のせいで どことなく暗いイメージだったけど 今年は何だかいい1年になりそうな気がした。 まだ6月だけど…。

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