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「根岸くん、ちょっといい?」
昼休みの終わり、皆で食堂を出ようとした時
声をかけられた。
人事の田口さんだ。社員試験の説明をしてくれた人。
俺は皆に、先に行ってて、と伝えてその場に残った。
「試験の過去問題あるから、帰りに渡すよ」
「え、いいんですか?」
「うん。でも結構な量なんだ
良かったら車で家まで運んであげるよ?」
「…いや、それは…悪いんで…いただいたら
適当に分けて持って帰りますよ」
ー この人は俺がΩって知ってるし
急に家まで来るとか…怖すぎ。
「そう?遠慮しなくていいのに
じゃぁ帰りに駐車場まで来てくれる?
家まで届けるつもりだったから
車に積みっぱなしでさ」
「分かりました。じゃぁ終わったら寄ります」
「うんうん、じゃぁ頑張って」
肩を軽く叩かれて別れた。
田口さんてαだろうかβだろうか?
ものすごく微妙なラインにいる。
頭は良さそうで、いい大学を出ていそうだ。
でも、こんな言い方もどうかと思うが
顔も体格も、いたって普通だ。
見た目だけだったら政実の方がよっぽどαっぽい。
今まで契約の更新時くらいしか言葉を交わした
事がなかったから、急に近づいたような
距離感に戸惑ってしまうのは自意識過剰だろうか?
・
・
言われた通り、終礼後社員用の駐車場に向かった。
社員の利用する駐車場と、俺たちの利用している
駐車場は同じ敷地内でも全然違う場所にあった。
俺たちの利用している駐車場よりも、そこは
ずっと綺麗で、管理が行き届いている。
30台ほどの車が駐車された敷地に入ると
まず、見慣れたランクルが目に飛び込んできた。
思わず舌打ちしてしまう。
ー 蓮と同じ駐車場だったのか…。
社員用の駐車場も、広大な敷地内に何ヵ所か
点在しているから、まさか同じとは思わなかった。
なぜだか分からないけど、班長や、社員と
親しくしているのを見られると、気のせいか
蓮の視線が冷たくなる気がして、あまり見られ
たくなかった。
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