81 / 122
14. 傷
街がオレンジ色のオバケで溢れ始めた頃
政実の内定が決まり、気持ちに余裕ができた政実は
暇さえあれば飲み歩き、卒業旅行に出かけたりと
大忙しだった。
俺も頻繁に政実の家に泊まり、政実の家から
出勤する事も珍しくなく、合鍵ももらい
同棲でもしているようだった。
「もう、ここに住んじゃえば?
家賃光熱費半分こできるし…」
出勤するためにガタガタ準備していたら
起こしてしまったようで、目を擦りながら
出てきた政実がポロっと言った。
「ははは、まぁそうだな…」
俺は笑って聞き流す。
政実はあくびをしながら、今日はご飯どうする?
と聞いてきた。
「今日は自分の家、帰るよ、勉強もあるし」
「そ、了解…気をつけてね」
「おう!起こしてごめん」
「あ、いってらっしゃいのチューでもしとく?」
「アホか!事故るわ!」
「はは、何で事故るのひどい~」
「じゃぁ、またっ」
遅刻しそうで慌ててる素振りで外へ飛び出した。
ー 本当に事故る…
何で急にあんな事言い出したんだ?
心臓のバクバクは、しばらく止まらなかった。
・
・
・
その日は会社の同期メンバーと飲み会だった。
政実も就職活動をしていた時にできた友人何人かと
飲み会だと言っていたから、俺はそのまま自分の
家に帰るつもりだった。
でも、集まっていた居酒屋からは政実の家の方が
近いと気づいて、政実の家に帰ろうと、その場で
決めた。政実に会うのは3日ぶりくらいだ。
同じ方向に帰るヤツをみつけて
タクシーを相乗りで帰ることになった。
時間は最終もなくなった深夜。
会えないと思っていたから、家に押しかける
口実ができて嬉しい。
政美には特に連絡しなかった。夜も遅かったし
寝ていたら起こしちゃ可哀想だ。
今までも突然押し掛けて泊まらせてもらった事は
何度もあったから。
気にしないだろうと思ったのだ。
なんなら酔ったフリで寝込みでも襲おうか。
いや、冗談でもそんな事を考えると、体が
熱くなってしまう。よくない。よくない。
タクシーを降りて3階の政実の部屋を見上げると
電気がついてた。
ー もう帰ってるんだ。政実 早かったんだな。
そんな事を思いながら、部屋の鍵を開けた。
玄関を開けると、政実が慌てた様子で玄関に
飛び出してきた。
ともだちにシェアしよう!