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「あ、あれ?今日は帰るって言ってなかった?」
「帰ろうと思ったけど、こっちの方が近くて
タクシー相乗りで帰って来た…」
「へ、へぇー…そっか、あ、ネギ、ちょっと
コンビニ行かない?」
政実の挙動が明らかにおかしい。
「この寒いのに、そのカッコで?外へ?」
政実は裸に、長袖のシャツの前を全開にして
羽織っているだけで、下はスウェットを
かろうじて(?)履いていた。
俺が靴を脱いで上がろうとするのを、両肩を
捕まえて阻止する。
ー あ、女でも連れ込んでたか…
政実の体から微かに甘い香りを感じて
同時にバスルームからシャワーの音がした。
「………ぁ、女の子?ごめん…」
「あ、うん、まぁそんな感じ?」
俺は深く息を吐いて肩を落とした。
ここしばらく、特定の女の子の話しも
していなかったし、一緒に住んじゃおうか?
なんて…フリーだから言ってると思ってた。
それなのに…やっぱり…。
帰るね、と言おうとしたその時
バスルームから声が聞こえた。
「政美君このシャツ借りるね」
そしてガラッとドアの開く音とともに
出てきたのは女の子じゃなかった。
目の前が真っ白になった。
ほろ酔い気分は一気に覚めた。
「あ、ごめんなさい!」
そう言って慌てて政実の寝室に飛び込んで
隠れたのは、政実のシャツだけ羽織り
首にチョーカーを着けた
Ωの男の子だった。
ー え? 今の、ナニ…?
足が震えて、外へ飛び出したいのに動けない。
「ネギ…あの、これは…」
その時俺はどんな顔をしてただろう。
想像もできない醜い顔だったに違いない。
バスルームからあの子が出てきた瞬間から
部屋に立ち込めたボディーソープの香りと
フェロモンの匂い。
吐き気がしてきて、俺はやっと、震える足を
引きずるようにして玄関のドアを開けた。
「一緒に飲んでたら、今日発情期だったって
薬持ってくるの忘れちゃって、このまま
帰るの怖いって…」
俺の後を追って出てきた政実が
まるで浮気現場を目撃された男のように
言い訳を始める。
「とりあえず、俺んちで休ませて、俺だけで
薬局に薬買いに行こうとしたら…いや~発情期の
フェロモンヤバイね!負けたよ!ははっ」
政実が笑い事にしようとしている。
一緒に笑って、何でもないように振る舞いたいのに
全然笑えなかった。
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