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歓楽街に戻ってきた。 駅前からタクシーに乗って、フラフラと。 どこかでもう一度飲みたい …いや、そうじゃない。 飲むだけなら家で一人でビールでよかった。 そうしなかったのは 一人になりたくなかったからだ。 誰でもいい。 どうでもいい。 誰か俺を抱いたらいいのに。 そんな風に考えながら街をさ迷ってた。 居酒屋にしても、バーにしても お酒を楽しむ店に一人で入った事なんてない。 店も全然知らないし、時間が深いから、店じまいを 始めている店も少なくなかった。 一件の立呑屋が、まだ賑わっていて 間口も広くて入り安そうだっから そこに入ろうと決めた。 すると、たまたま出てきたサラリーマン風の 男に声をかけられた。 「あれ1人?」 「…ハイ」 「俺もなんだ。寂しくてさ一緒に飲まない?」 ほろ酔い状態のその男は、見た目は普通のβだった。 良いところも悪いところもみつからない。 そこが気に入ったので、ついて行ってみることにした。 俺が黙って頷くと、本当に~?と喜んだ。 「良い店知ってるんだよ」 そう言われて、ついていく。 こんな露骨なナンパについてくなんて 初めてだったけど、自分でも驚くほど冷静だ。 「君ってΩ?」 「ハイ」 「そうかーやっぱり。俺はβ」 「………」 あれこれどうでもいい話をされて、適当に 相づちを返す。 気づいたら人通りのまばらなホテル街に来ていた。 「……本当にこっちに店あるの?」 俺が聞くと男は、さぁ~とにやついて返してくる。 その笑い方がイラついて一気に覚めた。 ホテルが嫌だった訳じゃない。 本当に生理的にその笑い方が気に入らなかっただけ。 「…俺、やっぱり帰る」 そう言って、来た道を戻ろうとしたら、腕を 掴まれた。 「ここまで来たら付き合ってよ~」 ヘラヘラ笑って目の前のホテルに入ろうとする。 「離して下さい」 「まあまあ」 「……あ、俺未成年です」 「そうなんだ~ラッキー」 ダメだ。ゲスだ。話が通じない。 俺が腕を振りほどこうと暴れていたら 突然、声をかけられた。 「何してるの?」 知ってる声だった。 振り返ると、見知らぬ女性と腕を組んだ 蓮が立っていた。

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