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「れ、れん…」 「え、知り合い?」 男が聞いてきて 、俺はウンウン頷いた。 面倒になったのか、男は、蓮が何か言う前に チッと舌打ちすると、さっさとその場を 立ち去った。 残された俺は気まずさで蓮の顔も見れず うつむいていた。 きっと、めちゃめちゃ怒った顔をしてるだろう。 心臓がバクバク鳴った。 どうして蓮はいつもヒーローみたいな タイミングで俺の前に現れるんだろう。 「大丈夫?体調悪いんじゃない? 顔、真っ青…」 蓮と一緒にいた女性が声をかけてきた。 「…ありがと…大丈夫…」 小さな声しか出なかったから 2人には聞こえたか分からなかったけど それだけ言って、歩き出した。 「和真」 蓮が声をかけてきたけど足は止めなかった。 ー バカなことした…こんなこと。 情けなくて泣けてくる。 通りに出てタクシーを捕まえようとしたけど こんな時にはなかなか通らない。 すぐにタクシーを探すのはあきらめた。 政実の家からここまでも無駄にタクシーを 使っている。 正直、一月の遊びに使える予算はオーバー していた。 帰るのはあきらめて、駅前の24時間営業の ファミレスで、始発の動く時間まで 時間を潰そうと、そちらへ向かった。 空いている店内に入って、食べたくもないポテトと ドリンクバーを注文して 炭酸飲料を一杯、一気に飲み干してから 机に突っ伏し、目を閉じた。 思い出したくもない、ほんの数時間前の出来事が 勝手に浮かんできて眉を寄せた。 あの男の子…どこかで見たことあると思ったら 前に居酒屋で会った、人懐っこい可愛い子だ。 あの時から、きっと政実を狙ってたんだ。 発情期を利用して…。 薬を持ってないなんて下手な誘い文句で、あっさり 引っかかる政実にも腹が立って、何度も激しく 頭の中で罵った。 ー 発情期ぐらいで、簡単に手に入れられるなら 俺も使えばよかったかな…。 後先考えず…とりあえず既成事実だけ作って 政実を追い込めばよかった? それも今さらだ…頭に血が上って、酔いも手伝って ひどい暴言を吐いてしまった。 「………キエタイ」 小さく一人言を言った時 コンコンと机を叩く音が聞こえて 顔を上げた。 「何してんだバカ」 蓮があきれた顔で言いながら目の前の席にドカッと 腰を下ろした。

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