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泣いてたのを気づかれたくなくて、チラッと 見てすぐまた顔を伏せた。 「さっきの女の人は?」 「心配しなくても、ちょうど帰るところ だったから、ちゃんとタクシーに乗せたよ」 「……あっそ」 蓮は何で俺の最悪な時に、いつも側に いるのかな。 俺にGPSでも付けてるのかな。 来てくれたのが嬉しくてどんどん涙が 溢れてしまう。 そんな事を思っちゃダメなのに。 「おい、帰るぞ」 連がまたテーブルをコンコンと叩いて言った。 「…どこに?」 「帰るって言ったら家だろ?」 「誰の家?」 「ちゃんとお前の家まで送ってやるよ」 「………ヤダ」 「は?」 「…蓮のとこがいい」 1人は嫌だ。1人になりたくない。 「…碧斗に悪いから俺に関わるのは やめたんじゃなかったの?」 「………」 「俺のとこ来るって、どういうつもりで 言ってんの?」 「…もういいよ、俺が悪かった。 ほっといて、帰って」 最低だな…何もかもめちゃくちゃだバカ。 もうこれ以上ないくらいダメな日。 蓮は立ち去る様子もなく、定員にドリンクバーを 注文して、黙々と俺の頼んでいたポテトを 食べた。 どれくらい時間がたっただろう。 ひとしきり食べて飲んだ蓮が、ため息をついて 静かに話し出した。 「碧斗さ…先月末にロシア行ったんだよ」 俺は一瞬、ん?と思ったけど 顔を上げずに黙って続きを待った。 「父親がロシア人なんだ、仕事の関係で ずっと離れて暮らしてたけど ついにお母さんも向こうで暮らす決心を したんだって。 碧斗はもう、成人してるし日本の生活も長いし ついてくつもりもなかったみたいだけど 急に気が変わったらしい」 俺は少し顔を上げて蓮を見た。 蓮がそれに気づいて俺の顔を覗きこむ。 「ひっでー顔!」 「うるさいなっ」 蓮はクスクス笑いながら俺にお絞りを投げてきた。 「なんか全て ゼロにしたくなったんだって」 俺は蓮の投げてきたお絞りを目頭に 当てて、また顔を伏せた。 碧斗君はどんな気持ちで日本を離れたのかな 蓮や、自分にうんざりして? それとも新しい世界に希望を膨らませて? 今の俺みたいに、何もかもから逃げたくて 飛び出していったんじゃないといいな…。

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