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17. 6

蓮は翌朝も何も変わらなかった。 仕事場でも。 俺は遠目から蓮の様子を窺ってた。 でも、どれだけ注意して見ても、いつもの蓮だった。 毎年、命日が近づく度にあんな風に 思い出すのだろうか。 去年…今頃どうしてたっけ? 何か変わったことあった? 普通だったような…? 普通に会って普通にやって… ー あ、碧斗君! 思い出した。碧斗君に初めて会ったのは 今頃だったかもしれない! ひょっとしてこの時期だから二人は一緒に 過ごしてた? 碧斗君に会って冷静になって…だから 俺にはそんな素振りも見せず、いつもの蓮で いられたのかも…。 そう思ったら碧斗君の存在の大きさを感じる。 俺とは違う。当事者しか分かりあえない何かが 二人にはきっとあっただろう。 俺がいて良かったなんて言ってたけど 全然ダメだ。セックスなんかで埋められるわけない。 自分の存在の軽さが悔しい…。 でも…今の自分にできるのは 近くで寄り添う事だけだ。 「今日はこの後、誰かと予定あるの?」 仕事が終わり、家まで送ってもらう車内で 蓮に聞いた。 「…そんな事聞くの珍しいな… あるよ。ごめんな」 「あ、そう…」 蓮が1人じゃないならいい。 俺が黙りこむと、蓮が気まずそうに咳払いをした。 「昨日の事は…忘れて…くれ」 「はい?」 「別にずっとあんな事、考えてる訳じゃない 意外と…ちゃんと心の整理はついてるよ…」 じゃなかったら とっくに死んでる、と笑った。 「……でも、誰かに聞いてほしかったのも事実だよ 吐き出してスッキリしたかったのかも…」 「……スッキリした?」 「…どうかな?正直よく分からない でも、言わなきゃ良かった!…なんて 逆に落ち込んだりはしてない ただ和真を巻き込んで悪かったとは思ってるよ」 「蓮が話して、少しでも楽になったならそれでいい 俺、ポンコツで…蓮の気持ちを軽くするような 言葉、なに一つ浮かばなくてさ…ゴメン」 「それこそ気にするなよ おまえがカウンセラーみたいにサラサラ 俺の事慰めたりしたら ドン引きだわ」

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