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「そっちが来いよ!」 「ふはは、そっか…そうだな…」 半分は冗談だけど、半分は本気だ。 転勤なんてした事のない俺には分からないけど 見知らぬ土地で、知り合いの1人もいない場所で 新しい生活を始めるのは。 どんな人にとっても少なからずストレスに なるはずだ。 蓮は要領もいいし、人と付き合うのも上手いから きっと問題ないだろうけど、俺はあの夜の蓮も 知ってる…。 蓮が俺を心配してるように、俺も蓮のことが 心配だった。 「じゃぁさ…」 蓮がちらっと俺を見る。 「ん?」 「金もかかるし…いっそのこと 一緒に住む?」 「………は?」 聞き間違いかと思って聞き返す。 「名古屋についてくる?」 ポカンと口を開けて蓮を見た。 蓮はニッコリ笑って俺を見てる。 ー え? 冗談? 「……4月からやっと正社員になれるのに? それを捨てて?」 「……ははは、だよな!」 ー あ、やっぱり冗談か。 蓮が、なんか食い物持ってくる、とベッドを 降りた。 部屋を出ていく蓮を思わず呼び止めた。 「俺が…もし…!」 「ん?」 「俺がもし、ついて行くって言ったらさ 蓮は俺の物になってくれんの?」 「…え?」 「今みたいじゃない。俺だけの恋人に なってくれるの?」 「…………」 蓮の目が俺から反らされて、泳いだ。 「……はい、ブブ~~~!」 「え!?」 「そこはさ、即答してくれないようなヤツに ついて行けるわけないじゃん! 結果的に破ることになってもさ!」 蓮がキョトンとして俺を見て、 そしてフッと笑った。 「…そうだよな…」 そう言って部屋を出ていく。 ー 心臓が飛び出しそうだ お前だけのものになる、と言ってくれなくて ガッカリしたのか。 そう言われなくて良かった、とホッとしたのか 自分でもよく分からない。 そしてツマミや飲み物を抱えて戻ってきた蓮が 俺に言ったんだ。 「和真はどうなの? 俺がお前だけの物になるって言ったらさ ずっと好きだったアイツを綺麗さっぱり 忘れられるの?」

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