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第2話【Side:山戸慶】
『元気だよ。ずっと連絡とれなくてごめん』
佐川への返信はすぐに既読になり、山戸が感情を落ち着かせる前には返信が来ていた。
「本当だよ、なんでいきなり」
文字に打ち込む前に、言葉が口から出ていく。
山戸と佐川は高校時代の3年間同じクラスだった。男子校だった事もあり、ほとんどのクラスメイトとは仲が良かったが、佐川は群を抜いていた。好きなバンド、服装、考え方すべてが似ていたのだ。考えている事を口にしなくても佐川には伝わっていると、勘違いしていた時期もあったほどだ。次第に佐川の隣は山戸にとってととても居心地が良い場所となり、周囲からもふたりの仲の良さは公認で、お互いの苗字からとって、「宅急便コンビ」と呼ばれるようになっていた。
この関係は高校を卒業しても、大学が離れても、お互いが結婚しても、永遠に続くと山戸は思っていた。だが、それは思い過ごしだった。
卒業式後、山戸を裏切るように佐川からの連絡が途絶えたのだ。
元々、佐川は地方の国立大学に進学することが決まり、卒業式が終わったら家を出ると話していた。山戸自身も引っ越しで忙しいのだろうと思っていた。しかし、大学生活が始まってからも連絡は来ず、山戸から「元気か?」と連絡をしても全く反応がない生活が続いた。
ある日、ふとしたきっかけで高校の同級生と夕食を一緒に食べた時に、その友人が佐川と連絡を取っていたことを知り山戸は絶句した。他の誰かが、自分の知らない佐川の話をしているのを見て、佐川は連絡が「取れなかった」のではなく、「取らなかった」のだとその時初めて痛感をした。
「嫌われてたのかと思った」
携帯の画面を一点に見つめる。過去の浸りから呼び戻される様に、携帯が振動する。佐川からスタンプが連続で送られてきており、どうやら山戸への返事の催促をしているようだ。
「なんだよ、こいつ」
自然と笑みがこぼれる。
佐川への怒りはなかった。他の友人とやり取りをしているのを知り、元気でやっているならそれでいいと思っていたからだ。寂しさはあったが、自分は佐川の人生には必要のない人間だったのだから仕方ないと山戸は思っていた。なのになんで…
「やばい……うれしい」
こぼれ出る笑みを抑え、携帯と向き合う。
『すまん、考え事してた笑 ってか、本当だよ。ビビった。連絡とれなさすぎて死んでるのかと思った笑』
『おい、勝手に殺すな』
『お前が連絡を全くよこさないのが悪い。俺はしてたよ。一方的に』
『知ってる、ごめん』
『許さん』
『怒ってる?』
『怒ってる』
『ごめんてー』
『ごめんですむなら警察いらない』
『うわーそれ昔めっちゃ言われたやつ。懐かしい笑 そしてなんかうれしい』
『なんだそれ笑 反省しろ』
『反省してます……』
途切れず淡々と続いていく会話。気づけば時間は0時を回っており、山戸の瞼は徐々に重くなってきていた。
「眠い。今日も一日暇してただけなのに」
ここで寝たら、佐川との久しぶりの連絡が途切れてしまうと、必死に目を擦る。
寝る前にひとつ、山戸は佐川に確認したいことがあった。今のノリなら聞ける、そう思った。
携帯画面と数秒にらめっこし、山戸は1つの言葉を打ちだす。
『なぁ、佐川。1つ聞いていい?』
『いいよー。答えられる範囲であれば』
『ん―とさ』
『●●大学●●学部卒業。28歳。独身。彼女はいない』
『そんなことは聞いていない』
『じゃあなんだよ』
『卒業式の日』
『懐かしい 桜がすごかったな』
『また明日』
『?』
『また明日なって言って別れたのに、なんで連絡今まで一度もくれなかった?』
既読になる。しかし、先ほどのテンポと変わって返事はすぐ来ない。この言葉だけだと高圧的だろうか?と、
山戸は1つキャラクタースタンプを押した。スタンプは感情をすぐに表現できるから楽だと山戸は思った。
今後は既読にならない。
あ、これやっちゃったかも。と山戸は小さな焦りを感じた。
思い出される、連絡をしても返事が来ない日々。
「ちょっと、焦りすぎたか?」
携帯の画面を閉じ、額につける。はやく返事こいと思っても反応はない。長い間ずっと待てたのに、なぜこんな時間が耐え切れないのだろうか。
結局そのまま、数分待ったが佐川からの返事はこなかった。きっと明日朝起きても返事は来ないだろう。佐川はそういう男だ、元気だったならいいじゃないかと山戸は思った。
――信じたら裏切られる。高校時代だってそうだったじゃないか。
一時感じた気持ちの高揚はあっという間に無くなった。山戸は深いため息をついた。
「佐川のばか」
そのまま目を閉じ、眠りについた。
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