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しゅこしだけ時間くだちゃい!
サガが残してくれたカレーと冷凍ご飯を電子レンジでチンして服を着替える。
服って言っても、いつもの白いTシャツとジーパンだけど。
特にこだわっているわけではないけど、必ずTシャツは無地で白、ジーンズは藍色。
そんなことを説明しながらカレーをテーブルで1人食べている自分にちょっと淋しさを感じた。
気を紛らわせるために、今日のことを考えることにする。
「今日はどんな人が来るんだろ……ヤバイ日だしな」
火曜日は学校だとヘビーな科目が多いし、バイトでは新商品の展開とか割引とかをすることが多い。
だから帰り時間は遅いし、いつもの100倍疲れる。
「平和に生きたいぜ、ったく」
カレーをモグモグして飲み込んだ後、ハァとため息をついた。
「‘‘帰りは21時半ぐらいになります。遅れるかもしれないので、すいません’’っと」
一応『\おいで屋/』にメッセージを送信したのを確認してからスマホを閉じ、ごちそうさまと手を合わせたのに……いきなり木琴音が鳴り響く。
「メッセージ入れたら電話が来るシステムなのか、これ……?」
半笑いしながら緑のボタンをタップして耳に当てた。
「ちょっとサガ、いきなり電話はヤメてよ! びっくりするじゃん」
「ほう、福岡とええ感じやったってことやな……坊主」
思ってた声とは別の深みのある低い声にびっくりしたのとなんとなく電話の向こう側の相手が思わぬ人だったから、胸が高鳴る。
「エッちゃんさん……ですか?」
謎のイケメンのエッちゃんさんは癒しの6人には入ってないはずなのに。
「おお、そうや。おはようさん」
おはようございますと恐る恐る言うと、ふはっと笑うエッちゃんさん。
「そう怖がんな坊主。ちっちゃいおっさん、小人だと思えばええわ」
妖精とか小人とか、一体エッちゃんさんは何者なんだろうか。
引っこ抜かれて誰かについていく生き物が何か、見当もつかないや。
「そういえば、坊主……今日は大変な日なんやってな。気合い入れていき? 思いっきり癒したるから」
俺ちゃうけどなってクククッという声にまたクシャと目尻に皺を寄せて笑う姿が想像出来て、なんだか力が湧いてきた。
「ありがとう、エッちゃんさん。僕、頑張ってくるから」
僕は気合いを入れてそう言うと、ええ返事や、と褒めてくれたエッちゃんさん。
「こうやってちょくちょく電話するのが俺の仕事やから、アンダーケアや」
アンダーケアってもろ下ネタだよ。
「それならアフターケアだと思うよ?」
わざとだと思うけど、一応修正しておく僕。
「おお、そうか。まぁ、今日はスゴイやつ行くからある意味覚悟しときや?」
また電話するわと言ってブチッと電話を切られたスマホをテーブルに置いて、内容を整理してみる。
「覚悟って……なにされんの、僕」
想像したら昨日のサガの豹変を思い出してしまった。
『身体検査……させて?』
『そう、そのままでいいんだよ……自分を認めてあげな?』
『俺は平太に汚されるなら、喜んで汚れるよ』
身体が熱くなってきて、ビクンと震える。
「まぁ、エッちゃんさんに応援されたから頑張ろうっと」
僕はニィッと笑うと、スプーンを乗せたカレー皿を持って立ち上がり、シンクへと向かった。
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