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ギブミー、アリトルタイム……プリーズや

「目まぐるしいやろ、坊主」 アフターケアで電話をくれたエッちゃんさんの声に今日は土曜日かと思うけど、なんだかいつもより気持ちが軽い。 土曜日は学校が休みだけど、バイト先のコンビニは忙しいんだ。 「でも、みんなの優しさでやっていけてるし、癒されるのに忙しいって感じかな」 僕は穏やかに言うと、それは良かったわと深みのある声で言ってくれるエッちゃんさん。 「極度の人見知りのセキも警戒心の強い柄谷もものにするなんて……やるなぁ、坊主」 褒めてくれてるのかはわからないけど、嬉しくて明るい声を出して笑う僕。 カイリはすぐに打ち解けてくれたけど、キヨら本当にダメかと思ったから。 「で? 俺のあだ名はどうなった?」 忘れてたんちゃうやろなとヤンキーみたいな凄んだ声をエッちゃんは出し始めた。 「エツ……恵みの津で恵津はどう?」 エッちゃんからとっさに考えたのを言うと、エツ……南恵津(みなみえつ)かと言ったから、苗字を知らなかったことに気づいた。 「ええやないか……感謝や、坊主」 優しく言ってくれたのを聞いて、ホッと息を吐いた。 「今日は根切さんだよね? 遅くなるかもしれないってちゃんと伝えてよ?」 なんか昨日の電話を聞いてたら、ちょっと圧が凄い人だったから念には念を押す。 「たぶん言うても意味ないと思うわ」 なぜか力なく言ってため息を吐くエツ。 「怒られるかな……なるべく時間通りには帰れるように頑張るけど「いや、そういうことやないねん」」 言い訳を遮るようにエツはそう言い出したから、どうしたの?と聞いてみる。 「坊主は……中臣グループって知ってるか?」 「中臣って中臣鎌足でしょ? 大化改新の」 僕は単純に言ったら、やっぱそうやんなと呆れたように言うエツ。 「あれ、承久の乱だっけ?」 僕……あんまり社会得意じゃないんだ。 間違ってるのかと思って言ったら、合ってるけどちゃうとエツは笑い出した。 「知らん方がええかもな……まぁ、大丈夫や」 エツは適当に言うけど、いい声で本当に力になる。 今日はバイトだけだから黒のボディバックに荷物を入れ、肩に掛けて立ち上がる。 「じゃあ行ってくるよ、エツ」 力強く僕が言うと、おお、行ってきぃと優しく言ってくれて電話が切れた。 「楽しみはバイトの後でっと」 大きい声で言った後、心からの笑顔で部屋を後にした。  嵐の前の静けさなのか、それとも嵐が過ぎ去った後なのかはわからないけど、その姿を見ただけで空気が変わったことだけはわかった。  太陽のように明るいオレンジ色のスーツ  黒のワイシャツ  赤黒く光るネクタイ をビシッと決めた男性が歩いてくるのがスローモーションのように見える。 「エクスキューズミー、今から言う文をトランスレイトしてな?」 僕のレジに来た彼は大きいサングラスをしていたけど、言葉と声で根切さんかなと思う僕。 「OK. Please,allow me.(はい、どうぞ)」 僕が受けて立つように言うと、彼はふんと鼻を鳴らした。 「ヒーセイドザットザットザットザットザットボーイユウスドゥインザセンテンスワズロング……わかるか?」 なんて挑発するように口角を上げる根切さん(仮)。 でも、残念だな……僕、英語だけは得意なんだ。 「あの少年が言ったその文で使ったあのthatは間違いだったと彼は言った」 僕が淡々と言うと、彼はグレイトやと金色の前歯を見せて笑い、サングラスを外した。 茶髪でリーゼント風のもこもこ前髪に合わない……少年のようにキラキラしたつぶらの瞳が僕を見つめてきた。

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