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謎のイケメン

 「……何か用ですか?」 でも、警戒心剥き出しにして僕は問いかける。 「いや、なかなか特徴のないおにいさんやなぁと思うて……昔の俺にそっくり」 彼は大きい瞳でジッと見つめ、ニヤッと口角を上げた。 長髪に大きい瞳に蓄えた髭。 おまけにタバコ。 どこが似ているんだろう。  「あと、月額サービスがなんとかって言うてたから来てもうた」 これ、やるわと言って彼が渡して来たのは手作り感満載のチラシ。 チカチカするほどの色遣いの文字とこの世のものではないような絵が散らばっている。 なにこれ? 「月額1万円で6人の癒しのスペシャリストが貴方をあの手この手で楽しませましょう……?」 なんとか読んで彼の方を見ると、煙を静かに吐き、満足気な顔をしていた。  「月額サービスって、ほんまはサブスクリプションっていうねんで?」 ニヒッと笑う顔は少年みたいなんだ。 「サブ、クリスプ……?」 「サブがサクサクなら、メインはしっとりか……ってちゃうわ!」 なぜかノリ突っ込みをされて、思わず笑ってしまった僕。 なんでだろう。 ワイルドなのに、かわいらしさもある。 ギャップが面白い人だな。 「可愛らしいわ」 そして、ふっと笑い、優しい瞳で見つめる彼にドキッとしてしまった。 ああ、この人なら、信用してもいいかな。  「まずは1週間試してみて、嫌なら1万円返金するし、良いなら1ヶ月っていう単純なシステムでな」 1万円! たっか!? 「あほぅ、かなりまけてるんやで?」 彼はまたクククッと笑う。 「ええか? これは消費ちゃう……投資や」 今度は僕をじっと見つめる彼。 「良い企業に就職したいなら、経験をたくさんせぇ。 俺らと過ごす時間はビジネス書を100冊読むよりも濃いし、楽やしな……それに絶対後悔させへんわ」 僕は納得しかけるけど、まだちょっと躊躇う。 「まぁ、ええわ……なんかまじないみたいな四角いやつをスマホで読み込むか書いてある連絡先に電話すれば『おいで屋』に繋がるからな」 『おいで屋』なんて、聞いたことがない。  「あの、『おいで屋』ってどこにあるんですか?」 「ああ、自分の家に呼ぶやつやから気にせんといて……あとはおいおいやろうや」 家に呼ぶ……まさか、デーー 速すぎる展開に呆然とする僕を尻目に彼はまたタバコを口に当て煙を吹いた後、下に落としてグリグリと足で踏み潰す。 「難しく考えんでええわ。俺に1週間をくれるか、くれへんか……それだけを決めてくれや」 僕の頭を力強く撫でる。 「坊主がやるのはは心地よくいること……それだけやからな」 彼はクククッと笑い、ポンポンと頭を叩いた。 なんだろう。 ほんのり心が温かくなる。 「今日のおっちゃんの仕事は終わり。特別サービスやからな」 したり顔をした彼は僕に背を向けて、僕が来た方へ歩いていった。 右手を軽く振って去っていく姿は、まるで"またね"と言っているように見えたんだ。

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