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おいで屋

 「うーん、本当にどうしよう」 あの後、何事もなくアパートの部屋に着いた僕はリュックを下ろさずに謎のイケメンに渡されたチラシとにらめっこ。 「たぶん黒くて四角いのはQRコードだよな……てことは」 トークアプリを起動させ、モザイク画を読み込む。 すると、『\おいで屋/』と6色で彩られたプロフィール画像と6つの肌色系の手が円状に並ぶホーム画像が出てきた。 個性が出ていて興味はある。 でも、お金ない。 ふと、タバコを咥えた自称おっちゃんの男性の姿を思い出す。 生産性を上げる投資は人材資本としても有効だから、謎のイケメンの話は利にかなっていると思う。 それに、またあの人に会いたかった。 エイッと勢いで追加ボタンを押してみる。 「ヤバイと思ったら、消せばいいんだし」 後悔しないようにつぶやいて、やっとリュックを下ろす。   さぁ、シャワーにしようかご飯にしようかなんて考えて、スマホをテーブルに置いた瞬間に木琴のリズム音が鳴り響いた。 慌ててスマホの画面を見ると、『おいで屋』と表示されていた。 「いきなり電話かかってくるか、普通」 非現実な展開に苦笑いをしながら、横にスワイプして耳にスマホを当てる。 「あっ、もしもしぃ。こちら、おいで屋ですぅ」 ふわふわな話し方なのに、低めの良い声に聴き惚れる。 アニメのヒーローとかに向いてそうな声。 「もしもしぃ、もしも〜し……あれ、間違ったぁ?」 さっき登録なったやんなぁ、なんて柔らかい関西弁が聞こえてきてなおさらツボだ。 「あっ、合ってます! さっきタバコを咥えた長髪の男性にチラシ渡されて登録しました」 切られないように事情を早口で伝えると、今度はあっちが黙った。 「あの……「エッちゃんに会ったん? さっき? どこで!?」 スマホのスピーカーが壊れるくらいの音量と早口でいきなり話し出したイケボの彼。   「昔、商店街があった大通りで、バイト帰りに声かけられましたよ……自称おっちゃんのワイルドなイケメンさんでした」 「ほんまにエッちゃんやねぇ……ということは、月額サービス1万円の子かぁ」 ヘぇ〜やっと見つけたんやなぁ、と1人で納得しているイケボさん。  「あの、6人の癒しのスペシャリストの中にはエッちゃんさんは入ってますか?」 変な意味を含まないように慎重に聞くと、イケボさんはう〜んとねとゆっくり話し出す。 「エッちゃんは妖精さんやから入ってないんよ、ごめんなぁ」 ふわふわな口調でファンタジーなことを言うイケボさん……ワイルドなのに妖精って!?

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