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イケボ⇒福岡
"引っ抜かれて あなただけに ついていく"
高いのに味がある歌声が通り過ぎていく。
「あかんよ、エッちゃん! 今は俺の時間!!」
歌声に怒るから、僕は慌ててイケボさんに向けて聞く。
「じゃあ、あなたは……イケボさんは6人に入ってますか?」
イケボさんも何回聴いても飽きないくらい、いい声だし。
「僕? 入ってるけどなに……?」
誘うようなより低い声に胸が波打つ。
「まぁ、僕以外にも色物揃いやから楽しみにしといて……ドMとかツンデレとか」
ふふふと笑うイケボさんに、ますます拍動が早まる。
こんなに男の人にドキドキするなんて、初めてだ。
「じゃあ明日から始めてもええかな? 時間は今ぐらい?」
「はい、大丈夫です」
「ちなみに、君の名前聞いてもええ?」
「佐藤平太です」
さとうへいたねぇ……とイケボな彼に名前を呼ばれただけで心臓が破裂しそうだ。
「あの、あなたの名前はなんですか?」
告白するくらい緊張しながら、言ってみる。
告白は一度もしたことないけど。
「ん? 福岡 やでぇ」
福岡と来れば、名前はーー
「下の名前はサガさんですか?」
あれだけ話してたイケボさんが黙ってしまったから、変なことを言ったのに気づく。
「あっ、すいません……「サガってどういう字を書くと思う?」」
ノッてくるとは思わなかったのにびっくりしながらも、無い頭で考えを巡らせる。
「沙悟浄の『沙』に『雅』ですかね」
「ええねぇ……じゃあみんなの名前を決めてもらうの追加で、あとはタメ口なぁ」
ええ名前もらったわ、なんて言ってくれるイケボさん……サガはアッハッハッハと豪快に笑い出した。
「来てもらいたいところの住所はメッセージで送っといてなぁ……じゃあ、また明日ね」
僕はよろしく、と精一杯で返して電話を切った。
「はぁ、なんかいいな」
20歳どころか、今日で何かが変わった気がするのは僕だけかな。
まぁ、いいや……今日はもう疲れたから。
「さっ、食べて寝よう」
あとはいつもと同じ鮭弁当とお茶を食べるだけ。
でも、今日はちゃんと味がした。
なんだか明日が待ち遠しくなってきたんだ。
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