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ドアドンキス

  アパートの前まで来ても、人差し指繋ぎのままの僕ら。 片手が塞がった状態でなんとかカギを開けて、サガを先に入れた……のはいいんだけど。 なぜドアに身体を押し付けられて唇を塞がれているのだろうか。 いきなり過ぎて目は開けたまま、サガの唇の柔らかさだけしかわからずにフリーズする。  向きを変えることも  何かを口の中へ押し込むこともなく  ただ僕の唇に温もりを与えるだけのキス。  そのキスの目的も意味も  僕にはわからなかった。  切ない流し目をしながら僕の唇から離れ、安心したように微笑みを浮かべて僕の頭を撫でるサガ。 「今、魔法をかけた……これからは夢の時間やから思いっきり楽しもうなぁ」 端正な身のこなしと澱みない瞳で言われたら、うなずくしかなかった。 「よし、じゃあ夕飯作ろうっとぉ……お邪魔しま〜す」 サガは上機嫌の様子で靴を脱いで、居間に入っていく。 「僕のファーストキス……奪われた」 唇を人差し指で撫で、その指を眺めて余韻に浸る。   優しくて    温かくて    くすぐったいキスだった。    「どうしたん? 大丈夫?」 心配する声がしたからハッとして、今行くって声を出し、急いで居間へと向かった。  窓側にリュックを下ろして座る僕と斜め向かいに座るサガ。 テーブルにマグカップを2つ置いたサガは、黄色いランチバックから牛乳を取り出してからタッパーを2つ出す。 黄色いだけだと思っていたけど、真ん中には藍色の魚がプカプカ浮かんでいる。 「こっちは人参とカラムーチョのサラダ、こっちはカレー用の赤福神漬けとらっきょうの甘酢漬け………先につまんどいてええからねぇ」 「ありがとう。僕、カレー大好物なんだ」 ちょっと勇気を出したら、俺も!とサガは嬉しそうに笑ってくれたんだ。  「飲み物は牛乳ねぇ……マグカップいつもどっち使ってる?」 茶色のクマと黄色の鳥のマグカップがあったから、茶色のクマの方を指さすと、わかったぁとふんわりと微笑んで牛乳を注ぎ、僕の方へ寄せる。 「黄色い鳥ばっかじゃん、サガ」 僕は一笑する。 「あっ、ほんまやねぇ……やっぱ好きやからなぁ」 サガは牛乳を注ぎながら、ふふっと笑ってマグカップを口に運んだ。  「あとは、ちょっとやってて欲しいことがあるんやけどさぁ」 サガは肩に掛けていた赤と青のショルダーバッグから何かを取り出し、藍色のカバーを外してちょこちょこと触り始めた。 「ここに基本情報とか知ってて欲しいこととか、とにかくなんでも書いといてぇ」 終わったらゲームで遊んでてええからなぁ、と言いつつ、タブレットを僕に渡す。 その後、サガはついでに藍色と黒のチェックのエプロンを取り出し、牛乳をランチバックに入れてからキッチンへと入っていった。

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