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彼女

 「お客さんいるから、食器出そうっと」 両親が様子を見に来ることがあるから、2、3個の食器があるんだ。 でも、初めて家に上げた人が友達でも恋人でもない……出張ホストだなんて、アパートを契約した時の僕が知ったら驚くだろうな。 まぁ、こんなイケメンに出会うなんて想像もしなかったけど。 そう思って立ち上がると、エプロンを来たサガが小皿と箸とスプーンを持ってきてくれた。 「食べてて言うたけど、なかったら食えへんよね……ごめんなぁ」 立派なカレー皿も借りるなぁ、なんて言われたら……なんか申し訳なくなった。  「こっちこそごめん」 うつむきながらサガの持っていたものを取り返して、戻ろうとしたら……クスッと笑う声が聞こえて振り返る。 「今日の僕は平太の彼女やってこと、忘れんといてな? 」 近づいてきてありがとぉねって付け加えた後、また頭を撫でるサガに小さくうなずいたけど、恥ずかしくてそそくさと定位置に戻る。  「もしかしてやけど……平太って人見知り?」 人参とカラムーチョをバランス良くなるように小皿に乗せていたら、サガが優しく話しかけてきた。 「声をかけられたら話せなくはないけど、自分からは必要に迫られなかったら声をかけないからある意味人見知りかも……サガは?」 いただきますと言って、人参とカラムーチョのサラダを食べてみたら、めっちゃ良い味だったから、思わずうまっと声が出る。 人参の甘味とカラムーチョのピリッとした辛さが絶妙でクセになりそうなんだ。 「僕ねぇ、実は人見知りなんよぉ……目を合わせるのめっちゃ苦手やし、なんか間にないと話できひんもん」 なんか印象悪かったらごめんなぁ、と言うサガの言葉にびっくりしながらも、『そんなことないよ』さえ返せない自分に嫌気がさした。  人参カラムーチョサラダを少し食べて満足したから、マグカップの牛乳を飲み、ティッシュで両手を拭いてタブレットを手に取る。 名前、性別、生年月日、住所、電話番号……と基本的に書類にあるような項目をサガの鼻歌とジュージューといういい音を聴きながら書く僕。 「学校とかバイトとかも書いた方が良い?」 「う〜ん、都合の良い時間帯がわかればええから……とりあえず書いてみてぇ」 茶色い顆粒が入ったジッパーバッグを振ってフライパンに入れる藍色のチェックのエプロンのサガの後ろ姿に、彼女が手料理を作る感じってこんな感じなんだとしみじみと思ったんだ。

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