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なのに

 「やんなぁ……まぁ、夕飯はラーメンちゃうけど」 ふふふと笑うサガが可愛くて鼻血が出そうだ。 「後は、隣で歩いても僕の方が彼女に見えるかなぁ……なんて」 ぼんやりしていたら、サガは僕の手を取って、勢い良く歩き出す。 いきなり過ぎて転けそうになったのとその手慣れた感じが悔しくて、僕は少し意地悪なことを言う。 「僕より背が高くて、声が低い彼女なんているかよ」 すると、予想もしないくらいの高笑いが聞こえた。 「そ、そうかぁ……それも、そう、やんなぁ……アッハッハ」 横顔は逆光でよく見えなかったけど、一番楽しそうな笑い声は僕の耳と心にすごく響いたんだ。    「平太って年いくつ?」 「もうちょっとで20歳……です」 「僕とそんな変わらんやんかぁ」 「サガさん、僕より若く見えます」 「サガでええよ……僕も呼び捨てにするし」 僕を熱を帯びた瞳で見て口角を上げるサガ。 「今日は……あなただけ」 甘く囁かれて、勘違いしそうになる。 だから、お試しで良かったとちょっと思ったんだ。 「サガ、それ止めた方がいいよ……勘違いするから」 僕はブレーキをかける。 「勘違いしてくれてええよ。今日は平太の彼女やから」 まだいうか。 「本当に今日だけだよね」 もう、切り札しかない。 「なんでそんなこと言うん……?」 不安げに見つめてくる顔でさえ、イケメンだけどダメなんだ。 「明日からすれ違っても声かけないし、コンビニでお客さんとして会っても普通にするから」 雰囲気ぶち壊しだけど、ちゃんと言わなきゃいけないと思ったから俯きながら言う。 なんでだろう。 出張ホストなのに。 お金の関係なのに。  「平太は賢い子やなぁ」 でも、さらさらと僕の頭を大きい手で撫でてくれるサガ。 ズズッと鼻を啜る音が聞こえて僕が顔を上げようとしたら、ぎゅっと人差し指に力が入ったのに驚いてそっちを見る。 僕の人差し指に白くて長いサガの人差し指が絡んでいく。 「平太といっぱい過ごしたいから、はよいこ? 日、暮れてまうわぁ」 ズンズン進んでいくサガに引っ張られて、僕は勝手に早足になったんだ。

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