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1万円
「平太、辛くなかった?」
「うまかったよ、全部」
「ありがとぉ……平太は偉い子やねぇ」
夕飯の後、なぜか隣に来たサガ。
タブレットを右手で操作しながら左手で僕の頭を撫でるサガはまさに……仕事の出来る男。
「あっ、誕生日もうすぐやんかぁ……なんかお祝いしなあかんねぇ」
なんてすぐ気づくところ、イケメンだな。
「バイトが忙しい曜日は火曜と土曜で、日曜は必ず休みか……おっけぇー」
OKがひらがなに聞こえたのは、気のせいか。
「あとは……ああ、この順番かぁ、おもろ〜」
サガはタッチペンで花を描いた後、すぐに違うアプリを開いてサラサラと書いていく。
ちなみに順番は、花→奥まで飲み込め→抽象的なやつ→手→漢字→ブレイクスルー。
「じゃあ、顔合わせと名前付けのために1人ずつ癒しに来るからなぁ……では、1万円くださ〜い」
サガは悪い顔をして、左手を出す。
だから、僕はポケットから黒い財布を出したんだ。
「プラスアルファでいくらかくれたら、サービスがグレードアップするけど、どうする?」
誘うように言って僕を惑わそうとするから、僕は心の底にしまっていた思いが溢れ出る。
「友達になるには、いくら払ったらいい……?」
自ら人と距離を置いていたはずなのに、本当は淋しかったんだと発してから気づいたんだ。
「なに言うてんの?」
戸惑うサガの声も聞こえてきたから、僕は弁解する。
「いや、サガのプライベートを邪魔するつもりはないんだ、全く。ただ……ただ、たまに、ほんの一時、時間がある時にお話するだけ……それだけでいいから」
僕が今日一番の早さで語っていると、ふふふと笑う声が聞こえたから顔を上げた。
「いいよ、それなら追加料金はいらないから」
優しく微笑むサガに僕の心はじんわりと温かくなったんだ。
僕は黒の財布から福沢諭吉1枚を抜いて、サガの手に渡す。
エッちゃんさん、サガ、そしてこれから会うみなさんを信じて……僕は1週間を渡すね。
サガはありがとぉといつもの調子で言って、藍色のカバーのポケットに挟み、閉じる。
ああ、今日はこれで終わりかと、ちょっと切なくなってうつむいた。
僕とサガの恋人ごっこは終わり……明日から他人なんだね。
ツーンと痛む鼻をどうにかしたくて上を向くと、またサガはふふふと笑った。
「まだ終わりやないでぇ」
その声の先を見ると、サガは口角を上げていた。
そして近づいてきたサガは僕の耳元に顔を寄せる。
「身体検査……させて?」
甘くて低い声で囁かれただけなのに、なぜか身体が熱くなってきた。
高鳴る胸
熱い吐息
火照る顔
そして、頭が沸騰してきた。
「サガ、なんか変なもの入れた?」
吐息の漏らすように話すと、サガの切れ長の目に色が見えた。
「な〜んにも入れてへんよ……平太にとって悪いものは」
妖しい笑みを浮かべて僕を包む。
左手は背中、右手は鎖骨を滑っていく。
「身も心も俺で満たすのが、俺の仕事やで」
いつの間にか話し方がしっかりし、一人称が俺になってることに気づいたけど、そんなことはどうでもよくなっている僕。
「うはぁ……あっ……」
左手でお尻をゆるゆると撫でられ、右手で胸の先をピンッと弾かれたので、今まで出したことがない高い声が出る。
「感度は悪くないな……こんなこと初めて?」
「はじめて……どう、したら、良いか、わから、ない」
頭がぼっーとしている僕は感じたことのない感覚と雰囲気が飲み込めなくて、正直にサガにそう伝えた。
「かわいいな、平太……俺に任せて」
ふふっと笑ったサガはゆっくりと顔を近づけてきた。
チュッ、チュッと鳥がつつくようなキスを何度もする。
僕はその間に目を閉じて、軽く口を開けた。
すると、間を縫うように舌が入ってきて、僕の歯を撫でる。
ねっとりとした生温かさが口の中を蹂躙するので頭が痺れていく。
チュッと大きめの音が聞こえて離れた。
「ン……んうっ!」
唾を飲み込んだのに、口の端から顎へ唾液が伝う。
「下手くそやね、平太」
目を細めた後、長くて細い人差し指で絡め取り、長い舌で舐める仕草は……イケメン過ぎる。
「一緒にシャワー浴びよう、平太……そこで続きシよ?」
鳶色の瞳で優しく見つめるサガは力が抜けている僕を抱え上げたまま、居間を出た。
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