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芸術家
いつもは真っ暗なのに、まだ青空なのがちょっと不思議な感じがする。
でも、たまにはいいかな。
そんなことを思っていたら、向こうから派手な服装の人がひょこひょこひょことこっちへと歩いてくるのが見える。
いちごの帽子に緑のリュック、リーフ柄のワンピースに茶色のサルエルパンツ……どういうセンスなのか、わからない。
その人はいきなり上を見上げて立ち止まった。
振り返って空を見ると、上に薄い雲で下にモコモコと大きい雲があっただけ。
「別になにもないじゃん」
雨でも降ってくるのかと思い、手をかざしても雫1つ落ちてこなかった。
首を傾げた後に前を見ると、その人は脇に避けて、リュックから緑の板と黒と黄色のスケッチブックを取り出していた。
緑の板を広げたらなんと椅子になって、スケッチブックを開いてからそれに座り、ペンでさらさらっと書き始める。
「芸術家か。こんな街にもいるもんだな」
僕のイメージでは田舎の山奥に篭ってる感じだったから、ちょっと都会のこの街にいるとは思いもしなかった。
いや、でも都会だからあんな格好で歩いても他の人は気にしてないのか。
「今日どんな人だろ……早めに来てもらってもいいか、聞いてみよう」
初めて自分から電話しようかなと考えた僕は電話のボタンを押し、空を笑顔で眺める人を見ながら耳に構える。
すると、目の前の人がポケットからスマホを出して、そのまま耳に当てた。
「はいさーい、おいで屋ですよぉ」
話し方はサガに近いものの、声が高い……そして、なぜ沖縄なんだろうか。
しかも、2重に聞こえる。
「あの、佐藤平太と申しますが」
「あ〜どうもどうも平太さん! いつもお世話になってますぅ」
いや、こっちがお世話になってる……というか、お世話されてますと思って、ちょっと恥ずかしくなる。
「あの、仕事早く終わったので、今から来てもらってもいいですか?」
「はいはい、大丈夫ですよぉ……今、どこにいます?」
目の前の人から声が聞こえるし、キョロキョロしてるが見えて、まさかと思いながら答える。
「野乃商店街の本屋前ですけど……もしかして、今、空見ながら絵を描いてません?」
「あっ、はいはい〜描いてますよぉ。そこから、あのこと見えてますかぁ?」
まだキョロキョロしてる人……彼に近づきながら手を振ると、彼も気づいたのか、小刻みに手を振ってくれた。
「ほぇ〜わかりましたぁ。では、いったんバイバイですぅ」
バイバイ?と僕が言うと、ブチッと電話が切れる。
「どうもぉ、羽鳥 と言いますぅ。よろしくどうぞぉ」
そう聞こえて前を見ると、誰もいなかった。
「ばあっ!」
高い声とともにいきなり人が飛び掛かってきたのに驚いて、僕はしりもちをつく。
「もう、びっくりしすぎだよぉ」
左脇に緑の板とスケッチブックといちごの帽子を抱えた茶髪のボブの男性……羽鳥が大きい前歯を見せて笑っていた。
「へたばっちゃうなんて弱っちいんだぁね」
悪態をつきながらも手を差し出してくれたから掴んでみると、意外とゴツゴツした手で力強く握られてびっくりした。
「どんな絵を描いてたの?」
いちごの帽子を被り直してる羽鳥にそう聞くと、んーとねぇ、とのんびりとしながらスケッチブックを開き、渡される。
真ん中に1つ、下に3つの生き物らしきものが描かれてるものの、よくわからない。
「ウサギとサルとゾウが戯れてるのを、鷹が見物してる絵……弱肉強食的な感じかなぁ」
カバンに緑の板を仕舞いながら、んふふっと笑うのを聞いてたら、そう見えなくもないかなと思えてくる。
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