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あだ名

 「そういえば、モトもエッちゃんさんの話してたな」 『エッしゃんヤキモチ妬いてたから、あだ名ちゅけてあげてくだしゃい』 おぼっちゃまみたいなスーツをきちんと着ながら舌足らずな感じで言ってたのを思い出す。 あだ名を付けるのはよくあることだよな? まぁ、僕はイヤなあだ名ばっか付けられていたからあまり好きじゃないんだけど。 不細工なハムスターのキャラクターとか平々凡々くんとか。 もはや、お前呼ばわりが多かったし。 それに比べたら、エッちゃんなんてめちゃくちゃ良いあだ名なのにな。 なんて思いながらスタンドに立てかけたスマホで時間を確認したら、『\おいで屋/』からメッセージが来ていた。  『\おいで屋/』って公式アカウントではないって、今日初めて知ったんだ。 ネットで検索したら、公式アカウントから電話は来ないし、こっちからも電話が出来ないらしい。 一万円の人のための個人アカウントだったんだ。 "こっちから連絡するのは、アリやんな" そうよくわからない理屈のメッセージを送ってすぐ、ひよこの帽子を被った僕のアイコンが入ってきた。 身体検査の後に証明写真を撮ると、なぜかツーショットで映ったんだけど……まさか、顔を入れ替えられていたとは思いもしなかったな。  ‘‘関くん、駄々こねてる……けど、絶対連れてく’’ 関くんのことを実況してくれているサガ。 ムネ肉ミンチにさきいかとホタテの耳をハサミで切り入れながら、音声入力で‘‘無理しなくていいよ’’と打って送る。 「ささみもそろそろいいかな」 蓋を開けると、茹でていたささみが白よりの薄ピンクに色づいていたので、火を止めて余熱で蒸す。 ピロリンと続けて2回程鳴ったからスマホを見れば、サガとは口調が違う文章が綴られていた。 ‘‘はずかしいだけだから、だいじょおぶぅ^_^’’ これはたぶんツク。 見てみたら、アイコンは砂浜に立っている足にアロハという緑の字があるから合っている。 ‘‘平太しゃんはいい人だってみんにゃで言ってるんでしゅけど、『そんなええ人なんておらん』ってひねくれてましゅ’’ すぐに小豆色の首輪をつけたラブラドールレトリバーのアイコンからメッセージが来た。 モト……書き言葉も舌足らずなんだな。 今のところ、グループのメンバーはこれだけ。  「関くんって関西弁なんだ……駄々こねたりひねくれてたり、面白い人だな」 自分を汚されたくないから、他人と関わるのが苦手……傷つくのも傷つけるのもイヤ。 そんな思いが関くんから感じて、僕と似てるなって思う。 「たくさん傷ついたからこそ、なんだろうな」 どんなに合わせても、合わない人はいる。 最悪の場合、宇宙人……8次元なんて言われたこともあったな。 まだ顔も声も知らない相手を思いながら、ささみ5本を中皿に置き、代わりにつみれとカット野菜を入れて、再び火をつけた。

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