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クリスタル
一緒に手を合わせて食べ始めると、何も言わずに黙々と食べるキヨ。
艶のある黒のクールマッシュの髪型。
顔から首、手まで白く、彫刻のような綺麗さ。
箸を長い指で上手に持ち、赤くて厚い唇の持っていく。
どうしよう。
男性だとわかっているのに、ときめいてしまいそうだ。
サガとはまた違う綺麗さ。
まるでクリスタルみたいだ。
触れたらいけないのに、触れたい。
壊してしまっても構わないよ。
「な、に……?」
いつの間にかじっと見ていたようで怪訝な顔をするキヨ。
「ごめん、あまりにも綺麗だから」
僕は口角を上げた。
「見んといて」
ぷいっと目を反らしたキヨの顔は真っ赤になっていた。
怒らせてしまったのか、と僕は凹んだんだ。
黙って食べるキヨに美味しくないのかと料理も自信がなくなってきた。
焼き鳥はもちろん美味しい。
うちの店の自慢のタレと塩のもも串だから。
ささみのネギ塩だれ和えは
ささみの淡白な味
ネギの辛み
ごま油の香ばしさ
それに自分で味を調節できるところは天下逸品。
つみれ汁は
上品な出汁の香りが鼻を擽り、ひき肉の中から出てくるお宝に驚くはずなんだけど。
でも、キヨの口には合わなかったのかな。
なんて思いながらささみとたれを何パターンか試して絡めて食べるキヨの姿を見ていた。
「ご馳走さまでした」
キヨが手を合わせたから、お粗末さまでしたと言うと、ふぅと息を吐いて髪を掻き上げたキヨ。
「おりぇ、帰ってもええ?」
鋭く細い瞳が僕に刺さり、キヨと合わなかったんだと思い知らされた。
「気をつけて帰ってね……今日は来てくれてありがとう」
僕は悲しみの渦を押し込めるように口角を上げた。
キヨの瞳が少し揺れたが、前髪でまた目を隠して立ち上がった。
「少しだけでええから、時間くれへん?」
何を言ってるかわからなかったけど、とりあえず返事をした。
「タクシー来るまで時間潰したいから、シャワー貸して?」
なんて言うキヨに、適当に浴室とタオルの場所を教えると、キヨは肩を落として去っていった。
「やっぱりイヤだったかな……」
洗い物をしながらキヨの姿を思い返してみる。
ここに来る前にもイヤがってたし、ここに来てからも戸惑ったり、うつむいたりして暗い表情しか見えなかった。
心を開くどころか、むしろ南京錠を掛けたように固く閉じてしまったのではないかと思う僕。
「やっぱり僕は……」
続きが言葉にならなかった僕は水の流れる音に混じるように、目から悲しみの雨を降らせたのだった。
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