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スムージー

 悩んだ結果、りんごとみかんとバナナをミキサーに入れ、牛乳を加えてボタンを押し続ける。 出来たそれをスムージー用のジョッキに入れて飲んでいると、ピンポンとチャイムが鳴った。 「どうぞ〜開いてるので入ってきてください」 訪ねてくるのはおいで屋さんくらいだから、大きな声で言う。 「お邪魔しま〜す」 その声はハスキーな声で、ある意味イケボだなと思いつつ、りんごとみかんとバナナのバランスが最高だなというので頭が一杯になっていた。 「あっ、もう朝ごはんしてる〜俺が作るつもりだったのに」 へいた〜んと言った先を見ると、小麦色の肌に垂れた目の男性がエサを取られてしょげた子犬のような表情を浮かべていた。 「飲む? 結構美味しく出来たんだ」 人見知りなはずの僕がなぜか自然と飲みかけを彼に渡す。 「俺、スムージーは味にうるさいからな」 ドヤ顔をしてから飲んだ彼だけど、飲んですぐにうまっと声を上げた。 「みかんの酸っぱさが先に来るんだけど、りんごとバナナの甘みがそれを包み込む感じが良いよね」 「そうそう、ちゃんとバナナスムージーになってるしな」 バナナの他に果物を入れるとミックスジュースになりがちだから……ちゃんとわかってくれてるのが嬉しかった。  「柄谷(からや)さん……だよね。カイリって呼んでもいい?」 僕が聞くと、カイリとつぶやいてニコッと笑う彼。 「海軍の人みたいな顔してるからだよな……海の官吏から海吏だろ?」 なんてパッと僕が思った名前の意味を言い当てる彼……カイリは頭の回転が早いなと思ってびっくりする。 「なんとなくわかるわ……お前の顔見てると」 ふっと笑う顔はかっこよくて、ギャップがある人だなと思った。  「髪切りに行こっか」 カイリが作ってくれたチョコミルクのブルーベリージャム入りを紙カップで飲んでいたら、いきなり言うカイリに吐き出しそうになる僕。 「ていうか、髪切らして?」 カイリは右手でピースをして人差し指と中指を離したりくっつけたりする。 「ここで? どっかの美容院?」 僕が聞いてる間に脱いでいたオレンジの革ジャンを着ているカイリ。 「俺の前の勤め先……一応カリスマ美容師だったから切らせてくれるっしょ」 なんて淡々と言うカイリは僕にクリーム色のビニール袋を差し出した。 「これ、上に着て……三角と関本さんのセンスだけど、悪くはないし」 袋から出してみると、黒と赤の長袖チェックシャツだったから羽織ってみた。 「ワンポイント、いつもと違うだけでかっこよくなるからな」 褒めてくれたカイリに嬉しくなった僕はふふっと照れるように笑った。    「あ、もしもし……俺、俺」    部屋を出て、電話をしながら先を歩いているカイリについていくと、オレンジの車が駐車場に停まっていた。 俺、俺って母さん助けて詐欺と間違われそうだな。 「今から新規のお客さん連れてくんだけど、岸さんおる?」 ピピッと機械音が聞こえたからドアノブを探していると、ドアが鳥の翼のように立った。 ガルウィングにも驚いたけど、助手席だと思った方にハンドルが見える。 外車……そして、高級車。 「おっ、ナイスじゃん。サンキュー!」 上機嫌で電話を切り、ニヒッと笑うカイリ。 「ごめ~ん、へいたん。助手席そっち」 「あっ、僕こそごめん」 僕は急いで反対側に回り、そろそろと乗る。 鼻を掻きながらカイリが乗ると、翼が閉じられた。 「ヘアモデル扱いでVIP室開けてくれるってさ」 さらっと言ってカイリはエンジンを掛ける。 「本当にいいの?」 さっき会ったばっかなのに……と思う僕。 「いいって言われたら受け取っとけ。甘えるのも大事だぞ」 鏡ごしにキラースマイルを浮かべるカイリに、ありがとうと小さい声で言った。  元美容師、高級外車の乗りこなす……そしてイケメン。 僕が女の子だったら、確実に惚れているだろうな。 僕はカイリの横顔を見ながら、ツクの衝撃的な過去の話を聞いたのを思い出す。 『For though they may be parted there is.Still a chance that they will see.』 有名な洋楽を口ずさみながらチョコミルクを作るカイリがさりげなく言った割には驚きだった。 僕が何気なく棒チョコが刺さったクロワッサンを見て言っただけだったんだ。 『チョコが好きなの、ツクから聞いたんだね』 『アートが星人仲間が増えたぁって喜んでたから聞いてやった……あいつ好き好き星人が昔から好きだから』 ぶっきらぼうに言う口調とは裏腹に表情は柔らかかったから、仲が良いのは感じ取る。

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