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好きな人

 「カイリって好きな人いる?」 「おるけど、どうした?」 目尻がもっと下がって困った顔をするカイリ。 「その人って……三角モト?」 恐る恐る言ったらカイリは目を見開いて固まった。 いや、そうだとしても答えづらいと思う……だってそうだとしたら、カイリはドSってことになるし。 「ああ、そういうことか……びっくりしたぁ」 意味を理解したのか、声を出して明るく笑うカイリ。 「これはえんじ色……どっちかっていうと紫だから、三角とは違う色だよっていうか、そんなことになったらアートに殺されるわ」 ああ、危なかったってちょっと高い声で笑いながら言うと、ピンを外してまた髪を切り始めた。  モトの相手はツクっていうのにも驚いたけど、ラブホテルの時のツクを思い出せば、なんとなく腑に落ちる。 「俺の相手は……ネギくん」 カイリは愛おしそうに言うけど、誰だかわからなかった。 「へいたんがまだ会ってないホストの1人で、根切(ねぎり)っていう人……ドSでちょっと変な英語を使うんだ」 早くミートゥーしたいわって拗ねてんのという声は楽しそうで、本当に好きなんだなと思う。 「英語なら、カイリの方がすごいんじゃないの?」 「まぁ、ケンカの時はちゃんとした英語で捲し立てたら勝てるけど『I'll take care of you』って言われて、アレを始めたら、もう……」 顔を真っ赤にして悶えるカイリをみたら、可愛いなと思ってちょっと雄の部分が芽生える。 「I'll take care of you……so trust me?」 僕が意地悪な感じで言うと、カイリは蕩けた目をしていたが、唇を噛み締めた。 「ちゃんとへいたんをかっこよくしてから、たっぷりと……お願いします」 カイリは薄くなった後頭部にキスを落としてくれた。    顔の毛も剃ってもらってさっぱりした僕の髪に、初めて黒以外の色が入る。 なんかおいで屋さんに僕の知らないところを開発していただいてる気がする……いろんな意味で。 「さっと、あとは20分くらい待ってな」 カイリはカバーを被せると、僕の視界から消えた。  「俺って初めての人をかなり警戒するんだけどさ、今回は全くなかったんだよな」 自然なトーンの声が聞こえてきたから表情を見たかったけど、動くわけにもいかず黙って聞く。 「アートが似顔絵を書いてみんなに配ったから顔もわかるし、みんなからも悪い話はしないし。なにより、エッちゃんがちょっとだけでも関わりたいって言ったから」 「エッちゃんさんが……?」 こうなるきっかけとアフターケアをしてくれる謎のイケメンエッちゃんさん……彼が最初に気に入ってくれたんだよな。 「あの人、1万円サービスのお客さんを見つけたら完全に出張ホストをやめて経営の方に専念するはずだったんだけどさ」 「へいたんを見つけた途端になんか燃えてきたらしくて……でも6人でやる約束だったから電話だけになってんのに、もうさ、また会いたいってうるさくて」 ネギくんと一緒にぶーぶー言ってんの、と姿は見えないけど、さっきと変わらない声で言うカイリに信じられない気持ちになる。 「アートも新しいアダルトグッズがないか聞いてくるし、三角もアートやサガに聞いた言葉責めのメモを書き溜めて、それをプレゼントしたいみたいなことを言ってるし」 「会ってないネギくんでさえ『マニー以上のことをしたいわ、データメニーにキャッチしてこい』って言われてきたもん」 もうマシンガントークのように愛の数々を語られたら、恥ずかしくて溶けてしまいそうだ。

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