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味方

 「僕、なにもないのに……どうしてそこまで想ってくれるの?」 震える声を抑えるようにうつむく僕。 でも、すぐに頭の上に温もりを感じた。  顎が乗せられているのがわかったのは、5秒後。   「なんにもないからこそ、いろんな色に染めたくなるんだよ」 温かい吐息がゆっくりと顔にかかる。 「俺もなんにもないと思ってたんだけど、アートに会って、アートを通じてエッちゃんに会って、自分が本当にやりたいことってなんだって考えさせられた」 「だから美容師になった。でももっと人と関わりたくなって『おいで屋』に入ったら、関本さん、サガ、三角……そしてネギくんという最愛の人と会えたんだ」 『へいちゃんって、カラカラとどこか似てるんだよね』 ツクが言ってたのを思い出し、ああそうかと思えた。 「おいで屋が僕の窓口になってくれるってこと?」 僕の考えを言うと、賢いなぁへいたんはとまた耳元で囁くカイリ。 「お金の関係かもしれないけど、人と関わることが怖くないってことを少しずつ覚えていこうな」 なんて聞こえた後に、またカイリの温もりに包まれる。 僕は静かに目を閉じた。  『お前はなにも感じないんだな』 そう言って僕をひとりぼっちにしたのは誰だったかな……名前も顔も覚えてないけど、苦しくなる。 「高畠直正(たかはたなおまさ)ってやつが原因やろ? 9年間いじめられたから」 僕はその名前を聞いて血の気が引いた。 「大丈夫、そいつは今刑務所の中だから」 さらさらと軽く髪を撫でられている感覚があるけど、混乱したまま。 「進学校を受験したが落ち、二次募集の高校へ入学。しかし、タバコを吸っているのが見つかり、退学。困った末に始めた配達のバイトが実は詐欺グループの受け子で逮捕されたっていう顛末らしいぞ」 どこまでもクズだな、そいつって嘲笑うカイリ。 そりゃそうだよ。 学校の宿題も塾の課題も僕が代わりにやっていたんだから。  「だから、大丈夫だよ、へいたん……大丈夫、大丈夫」 トントンと胸をさすり、ずっと大丈夫って優しく囁いてくれる。 「サガもモトもツクもキヨもエッちゃんもネギくんも……もちろん俺も佐藤平太の味方だから」 なんて言われたら、頭の中はみんなの笑顔に囲まれる。 ああ、1人じゃないんだって心から思えた。 僕はカイリの手に自分の手を重ねる。 「カイリの手、温かいね」 僕が思ったまま言うと、まぁなって言って手を握ってくれた。 「まだ時間があるから、ちょっと寝たらいいよ……そばにおるから」 カイリの優しい言葉にありがとうって言って、静かに意識を飛ばした。

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