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柄谷カイリ

 「お前がハーバード出身やって、バラしてやったぞ」 「言っちゃダメってわかるでしょうよ。駆け引きが大事なんだから、もう!」 耳は1番早く覚醒するのか、カイリが誰かと話してる声が聞こえてきた。 たぶんツクだね。 「そんなんどうでもええわ……坊主だせや」 「今寝てるからアカン」 「そんな嘘が通じると思うな、柄谷!」 叫び声が深みがある感じだったから、エッちゃんさんだってわかる。 「ほんま、へいたんは今おやすみ中だから」 カイリが関西弁と標準語が混じりながらそう言ったと同時にドライヤーの音が止まる。  え〜と、シャンプーが終わったってことだから……20分くらい経ってるな。 気を利かせてくれたことが申し訳なくて、もう起きようかなと思ったら、柔らかくて高い声が聞こえたから止める。 「証拠に、へいちゃんの寝顔見せて?」 恥ずかしいけど、髪を切ってくれたカイリにお礼になるかな……なんて言い訳して寝たふりをする僕。 かわいい〜と女子高生が写真を撮る時のような声を上げるのはツクとサガかな。 「はぁ、舐め回したい」 「プック、発想がバリヤバいねぇ」 「そう言うハトはどうなん?」 「あなら……夢の中でも犯したい、かなぁ」 お前もヤバいやんかって言うサガに、そうだぁねと返すツクのやり取りに天国にいる天使ってこんな感じなんだろうなぁ、なんて癒される。 「ブーリーしたなるわ」 ココナッツミルクのカレーみたいなパンチのある感じの声が聞こえて、カイリが楽しそうに笑ったから……これが根切さんかと思った。   「あんまりいじめないでよ」 そう言って目をこする。 「平太」 「平太しゃん」 「へいちゃん♪」 「ペーター」 「おお、坊主」 「ヘイユー!!」 「あっ、起きた? へいた~ん」 7人揃ってるのが呼び名のレパートリーでわかり、一挙に集まるなんて仲良いなと僕はのんきに思う。 「ネギーのせいで起きてもうたやん」 「ミーのせいちゃうがな」 不満そうに言うキヨに逆ギレのように返す根切さん。 「仲良うしろよ!」 「ケンカはよくないでしゅ……気が収まらないならぼくちんを踏みつけてくだしゃい」 間を取り持とうとするエッちゃんさんとモト。 自由過ぎてどうなるかと見守ってたら、カイリがクシを通すのを止めて、鏡を開いた。  「これでいい? 新しい自分になったと思うよ」 優しい声で言われて、僕は恐る恐る顔を上げる。 前の鏡に映るのは誰だろうって思うくらいになっていて、なんか実感が湧かなくてふわふわした感想しか言えない。 でも、なんかワクワクする気持ちが溢れてきた。 「せっかくだからぁ、へいちゃんの新しい世界への門出を祝ってみんなでご飯行こうよぉ」 ツクの提案に賛成する言葉を口々に言うみんな。 「ダ〜メ! 今日は俺の日だから」 カイリは強く主張して、僕の頭を撫でた。 「なんでぇよ、どうせいつもんところで昼メシ食うんちゃうの?」 批判の声を上げるサガに、わかってないわとため息をつくカイリ。 「なんて言われようと、へいたんは俺だけのもん」 言い終わらないうちに耳たぶを噛まれたから、思わず喘ぎ声を上げてしまった。 「ご、ご飯食べる時にはテルしろよ……ヘイユー! ガラを貸すのはナウだけやからな!!」 根切さんは捨てゼリフを言い、他のみんなは言葉にならない言葉を言った後、ププッと電子音が聞こえた。 「さっ、邪魔者は消えたっと」 また耳を舐めながら被ってたマントとタオルを剥がしていくカイリ。 「なんでここまでしたか、教えてあげよっか?」 カイリは耳の裏から首を舐め、後ろの髪に顔を押し付けてリップ音を立てる。 「自分で作り上げた理想に襲われたいからだよ……ほんのちょっと、時間くれな?」 その甘い囁きに自分の知らない部分が疼いて……返事をする前にカイリを大きなベッドに押し倒していた。

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