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好き?
すごい速さで帰り支度を済ませた3人が来てから、僕はカギを閉めた。
「出さなきゃ負けよ、じゃんけんぽん!!」
駐車場までの短い距離なのに、誰が手を繋いでいくかで気合いの入ったじゃんけんをする5人。
掛け声がまさかのキヨだったのも驚いたけど、そんなに本気でやるもんじゃないでしょと思う僕。
「やったー俺やでぇい!」
「相変わらずキモい出し方すんなや」
結果は手の甲を向けて出したサガに決まった。
カイリに毒づかれても、上機嫌なサガ。
4人が走っていく中、人差し指を絡めてサガの心地良い鼻歌を聴きながら歩いていく。
「めっっちゃ会いたかったよぉ、平太♪」
んふふとハートが付きそうなくらい笑うサガにまだちょっとだけ抵抗がある僕。
でも、サガの身体からほんのり香るハーブに心が引き寄せられる。
「この香り、好き?」
思わず身体が寄っていたみたいで、すぐ離れる。
「好き?」
ニヤリと上げる口角のカッコよさに負けて、僕は小さくうなずいた。
「これは紫蘇。 僕のお店に最近入れたアロマなんだぁ」
「お店……アロマ……?」
「俺の本業はアロマセラピスト。 『ジェンニ』っていうお店だから来てみてぇ?」
コクンと首を傾げるから、鼻血が出そうになる。
「『サービスしちゃうよぉ』とかってお客さんを誘ってんでしょ?」
素直じゃないから僕が冷たく言うと、サガは口を尖らす。
「髪まで合わせたことはないでぇ。 平太がイヤになるまで、こ・の・ま・ま♪」
いつの間にか右手ごと握られ、さらりと恋人繋ぎにされてしまった。
「……人誑らし」
小さい声で呟いたのに、クスッという笑い声が隣から聞こえた。
「それは君の方だよ」
サガは耳元に顔を寄せたのか、生温かい息が首にかかる。
「7人のイケメンを誘って、乱してる困ったちゃんは……どこの誰?」
マシュマロに熱いチョコレートが絡みつくような甘い囁きに震える。
「でも……俺らしか知らない、平太やから」
ちょっと噛まれた耳が本当に熱かった。
「お〜そ〜い〜!!」
リムジンに先に乗ったツクが頬を膨らませて怒っていた。
「ほんまや、バイトしたるぞ」
「……待ちくたびれたわ、あほんだら」
眉間に皺を寄せたマニとエツ。
2人も耳付きの帽子を被っていた。
エツはキヨと同じものに黒いファーが追加されていて、マニは茶色いファーが満遍なく刺さっていた。
「マニのやつは……ライオン?」
何気なく言うと、ピンポンと高い声で言って立ち上がるツク。
「ようわかったな……まぁ、座り」
優しくそう言って叩いた場所は……エツの股の間。
オロオロとして躊躇っていると、2種類の大丈夫が聞こえてきた。
「エッちゃん、ほんまはいるはずなかったんやから」
おいでと手招きするサガ。
「俺が見つけてきた宝や、俺が守るわ」
口角を上げて、両手を広げるエツ。
これは……行くしかないよね。
僕は意を決して、エツの前に座る。
「では、あそこまでよろしゅうお願いいたします!」
マニの声に続いて、みんなでお願いしますと叫ぶと、リムジンは動き出した。
「おめでとさん、ユー……グラデーションや」
金歯を光らせて、自信満々に笑うマニ。
「コングラッチュレーションな……卒業しちゃアカンわ」
エツはクククッと笑いながら僕の頭に顎を載せて、髭をすりすりする。
「まぁ、ええわ。100万の部屋ゲットしたから堪忍してくれや」
「ひゃ、ひゃく!?」
僕のために、僕の一月の給与の10倍以上の金額を1日で使うことが理解出来なかった。
「この前言うたやろ? お金は人と自分の成長のために使うんやって」
「いや、でも……」
僕が納得しきれないでいると、後ろに抱き寄せられる。
「大丈夫や。お前にはそれだけの価値があるんやから」
深みのある声が胸のモヤモヤを溶かした。
「生まれてきてくれてありがとう。お前の両親にはおおきにやわ」
ストンとその言葉が腑に落ちて、ふわっと心が温まったんだ。
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