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勢揃い
「この耳、本当に意味あるの?」
恥ずかしくて抵抗すると、あるよぉとツクが答える。
「あのホテルのスイートルームだけの特殊なドレスコードなんだぁ」
いつもの適当なトーンで言うからウソだと思う僕。
「これ、マジやから」
アサイージュースをお盆で持ってきたカイリが苦笑いをしながら居間にやってきた。
なんか1つだけジョッキに入っていた……まさか。
「はい、へいた〜ん! リンゴとみかんを入れた特別なやつ……好きやろ?」
満面の笑みを浮かべて渡すカイリに断れるはずがなく、半分くらい一気に飲む。
アサイー中に感じるみかんの酸味。
ちょっとシャリシャリが多いから、たぶんりんご1個分使ったのがわかった。
「すんごいおいしいよ、ありがとう」
僕のジュースとは桁違いなくらいおいしくて素直に伝えると、カイリはまぁなと言って首の後ろを掻いたんだ。
談笑しながらアサイージュースの飲み終えた頃にまたピンポンが鳴った。
何度も鳴らすからは〜いと声をかけながら玄関に向かう。
怪しい人ではないとわかっているけど、勢い良くドアが開いて誰かに抱きつかれた瞬間はビクッとなった。
「はぁ、かわいい……食べてしまいたい」
甘くて低いイケボが聞こえてきて、主がサガだということがわかった。
「分福、隣のおばさんがびっくりしすぎてビニール袋床に落としてもうてりゅわ」
「あっ、ごめん……我慢できへんかった」
やっと離れてくれたサガは本当に同じ髪型の同じ髪色で黒い丸耳を付けていた。
「誕生日おめでとぉ。おそろぉってこんなにええんやねぇ」
ふふふと笑うサガはやっぱり綺麗な顔をしているなと思う。
「俺がどんだけ惚れとるか、よ~くわかったやろ?」
妖しい笑みを浮かべたサガを見て身体が疼く僕はもうサガに堕ちてるんだって理解するしかないよね。
「おりぇもおるからな」
高い声聞こえたから右側を見ると、右手を上げてよって言うキヨがいた。
キヨは黒の中に赤が入っている尖った耳の帽子みたいだ。
「僕のために来てくれたんだ、キヨ。ありがとうね」
「別にペーターのために来たんちゃうし、仕方なくやし」
ぶつぶつ言う割には耳まで赤くなっているキヨはやっぱりかわいいな、と今なら思える。
「でも……誕生日はおめでとう」
ほらな。
もしかしたら、僕が勘違いしたあの時もかわいい表情をしていたのかもしれないなって考える余裕が今はある。
あれ、ちょっとは大人っぽくなったかもしれない。
「ちょっと、はやいんじゃないの?」
拗ねたように頬を膨らませるツク。
「2人で平太しゃんを独り占めなんてズルいでしゅよ!」
ぷりぷりといじけるモト。
「お前らも中に入れよ、クソ」
素直じゃなくて鼻を鳴らすカイリ。
中にいた3人もやってきたから、賑やかになる。
「だってさ、ボスが待ちくたびれ過ぎて金歯と八重歯光らせながら火を吹い散らかしてんやもん」
サガはのんびりした口調に似合わない状況を述べる。
「南の歯ぎしりと貧乏ゆすりもヤバいわ」
キヨも深刻そうな顔をして言う。
それを聞いた3人は顔を真っ青にする。
「エビちゃんのマジギレはヤバい……」
「大魔王が暴れ回ってるのは大変でしゅ!」
「……はよ片していかな」
3人は大急ぎで中へ戻っていった。
「マニとエツまで来てるの?」
僕が聞くと、2人は駐車場を指差す。
そこにはど真ん中に黒くて長いリムジンが止まっていた。
「エッちゃんは今日運転手ちゃうから、ほんまはめっちゃ機嫌ええんやけどね」
なんて言って舌をペロッと出すサガ。
キヨなんか腹を抱えて大笑いをする。
僕はやられたなと苦笑いをするしかなかった。
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