60 / 61

真相

耳付き帽子を脱いだのに、獣のように乱れた僕ら。 意識は戻ったけど、力が入らない僕の上にエツが乗っていた。 「やっぱり若いやつのエネルギーはすごいわ」 いやいや、みんなの方がすごいよ。 「どうやった? 坊主」 なぜかエツは僕の胸に頭を乗せたまま話す。 「1万円以上の楽しみはあったよ、ありがとう」 素直に言い、エツのくせ毛を指に絡ませて弄ぶ。 「俺らも楽しくて、仕事なのを忘れてたわ」 変わらずにクククッて笑うエツの振動が胸に響く。 身軽に回転して、エツは人差し指と中指で半分に折り畳まれた1万円札を挟み、僕の胸を1回叩く。 「Could you give us a month?(少しだけ時間をくれないかい?)」 落ち着いた声で流暢に言うエツ。 「Of course! Please keep in touch .(もちろん! これからもよろしくね)」 僕も負けずに発音、アクセントをネイティブ並みな感じで返した。 「本契約成立……楽しみはこれからやで」 一番味わい深い声を出したエツはお腹にキスを落とす。  「俺な……坊主に会ったの、あれが初めてちゃうねん」 エツの衝撃の告白に僕の頭に雷が落ちる。 「ナンボがうちの街主催の大会が欲しい言うから、見に行ったのが高校生の英語弁論大会やった」 たぶん、僕がまぐれで全国大会まで行ったやつだ。 「ハーフみたいな顔のやつとか声に特徴があるやつとかがごまんといる中で、とんと平凡なやつがおった……それがお前や」 ふっと鼻を鳴らして続けるエツ。 「そいつが壇上に立って言葉を放った途端、空気が変わったわ。そいつの通る声、抑揚のある発音とアクセント、豊かな身振り手振りに俺は心を奪われたんや」 僕はハッとした。 さっき歌っていた時のエツに抱いた感想と瓜二つだったから。 「なっ、俺にそっくりやろ?」 エツはニヤリと笑い、クククッと声を上げる。 「あと、盛大に勘違いさせとるけど……俺が好きなのはナンボでもバードでもないで?」 僕は他に見当がつかなくて、困り果てた。 「アホ……坊主に決まっとるやろ」 ガシッと頭を掴まれ、またクククッと笑うエツ。 「サガにはもちろん、他の5人の誰にも負ける気はせえへんわ……最初に惚れたのは俺、見つけたのも俺やしな」 エツはグッと僕の頭を前に引っ張り、エツの額へとくっつける。  「お前の才能はまだまだ花開く。それを俺たちがいくらでもサポートするわ……自由にやりや」 目の前で目尻がくしゃくしゃになる。 僕の一番好きな顔だ。 「これからどんどん変わるから、楽しみにしときぃや?」 軽くキスをしたエツは優しくベッドへ戻してくれた。 「でも、俺らの想いは変わらん」 ニッと笑う顔はあの時と同じだった。 「一気に変わりすぎだろ……」 言葉と裏腹に満面の笑みを浮かべた僕。 「でも、これからは楽しみしかないね」 安心した僕はみんなの呼吸を聴きながら眠りに落ちた。

ともだちにシェアしよう!