4 / 17
episode 3
窓際の席で、校庭に咲く桜を眺めていた。
今年も綺麗に咲いたな、なんてぼーっと考えていると、開けられていた窓から風が入り込み、薄い白いカーテンを揺らした。
その反動で自分にふわり、と掛かったが避けようという気さえおきない。
「要 ?…ったく、何やってんだ」
「…凌 か。おはよう」
俺の事を名前で呼ぶのは名倉しかいない。
俺もまた、名前で呼ぶのは名倉だけ。
名倉は俺に掛かったカーテンを取って、窓を閉めた。
心地良い風だったのに。
「おはよ。お前なぁ…、なんで一人で行ったんだ?」
「あぁ、…ごめん。ちょっと一人になりたくて」
「ならそう連絡しろ。心配するだろうが」
名倉は呆れたようにため息をついた。
けれど名倉が心配性な事は知っているし、こういう時よくため息をつくのも知っている。
「うん、気をつける。ごめんね」
「もういいから、謝るな」
名倉とは高校も同じで、出会ったその日からずっと一緒に登校している。
今朝はなんだがずっとぼーっとしていて名倉に連絡するのも忘れていた。
また心配させてしまったな。
「髪、だいぶ伸びたな」
肩にかかりそうな黒い直毛をさらりと名倉の長い指が撫でる。
「見苦しい?」
「…切った方がいいな」
「わかった。凌がそう言うならそうしようかな」
俺は自分の髪を見て、名倉に軽く微笑んだ。
名倉はかっこいいんだけど、あまり笑わないしいつも怒っているように見えるから、皆きっと近づきにくいんだろうと思う。
「凌はさ、ずっと俺の友達でいてくれる?」
その言葉は純粋なもので、他意なんてこれっぽっちもない。
友達が名倉しかいない俺のちょっとした不安からきたもの。
「……ああ」
名倉は俺をじっと見つめて少し微笑んだ。
その微笑みに苦しそうな、どこか辛そうな感情を感じたのはきっと気のせい。
ともだちにシェアしよう!