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episode 5

* 名倉side * 初めて会った時、「こいつは他とは違う」と思った。 細くて、触れたら壊してしまいそうだと思った。 怯えたような表情を見せた彼に、どうしてか自分は敵ではないと認識してもらいたくなった。 αという性が世間から優秀だ、エリートだと過剰評価されているのは嫌というほど知っている。 同時にΩという性が世間から冷遇されているということも知っている。 俺は産まれた時からαに囲まれて生きてきた。 父も母もαで、二つ年下の妹もαだった。 周りにはαしかいなくて、初めて会ったΩが逢沢(あいさわ)だった。 艶やかなに黒髪に透き通るような白い肌が嫌というほど映える。 伏せられた目には長い睫毛が影を落としている姿が目に焼き付いて離れない。 息を吞むほど美しいと思った。 ああ、これが恋というものなのかと初めて思った。 「俺、初めて友達できた」 友達なんて今まで欲しいと思ったことなんてないけれど、その嬉しそうな表情を見れるのならもう何でもいいと思った。 それが最初に見た逢沢の笑顔だった。 「αとかΩとか関係なくお前が心配なんだ。それは友達として当然だろ?」 想いは隠そうと決めた。 伝えてしまったら、きっと困らせてしまうから。 伝えて今の関係が崩れてしまうくらいならば、ずっとこのままでいいと本気で思った。 だから、これくはいは許される。 髪を切れと言ったのも、俺の近くにいた方が安心だと言ったのも独占欲の現れ。 守りたい。 それは本心だった。 けれど、自分だけのものにしてしまいたい。 それも本心だった。

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