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episode 9

✳ 凌side ✳ 一週間、最初の二日は全く眠れなかった。 一人暮らしのこの家で食事の用意をしてくれる人もいない。 食事を買いに行く気力も、食欲さえもわかなかった。 ただじっと座り込んで考えることはあの日の出来事だけ。 覚悟はしていたつもりだったが、想像より遥かにキツかった。 いつかは必ずこんな状況がおきてしまうとわかっていて、要から距離を置かなかったのは俺だ。 もし、こうなる前に好きだと本当の気持ちを伝えていたら今より状況は良くなっていただろうか。 それとも要は俺から離れていってしまっただろうか。 今更そんな事を考えてもどうにもならないというのに、頭の中にはそればかりだった。 あの時、Ωのフェロモンに抵抗できなかった自分を思い返すと寒気がする。 俺を恐れていた要の表情が脳裏に焼き付いて離れない。 もう一度、会うことは許されるのだろうか。 正直どんな顔をして会えばいいのか全くわからなかった。 ふいにインターホンがなった。 こんな時に、と思ったが、この家に来るのは宅配かあるいは……。 「……要…」 要しか有り得ない。 「…凌、ごめん。どうしても会いたくて」 違う、そんな言葉が聞きたいんじゃない。 その言葉を言うのは俺の方だ。 突然の事で戸惑って言葉が上手く出せなかったが、これだけはどうしても伝えないといけなかった。 「……ごめん!要…許してもらおうなんて思ってない。けど…これだけはどうしても伝えたくて」 「…え、」 「謝って済む話じゃないってことも分かってる!俺は要を沢山傷つけた、裏切ってごめん」 床に手と額を付けた。 謝って済む話でないことなんてわかっているけれど、謝らなくていいという話でもない。 「顔上げてよ凌…俺、凌に話したい事があって来たんだ」 上から降ってきたのは嫌悪でも憎悪でもない、不安をまとったような声色だった。 「…俺、怒ってないよ。あれは事故だったんだ。それに俺だって悪いし…もっと抑制剤を飲んでおくべきだ、」 「要は悪くない!自分を責めないでくれ…お願いだから」 「…凌…?」 自分でも意識しないうちに体が勝手に動いて要の肩を掴んでいた。 ああ…目を合わせてしまった。 それでも要に自分を責めてほしくなかった。 「酷いクマ…。それに、前よりずっと痩せてる…。ちゃんとご飯食べてないでしょ」 頬を掴まれてしまい、顔を逸らそうにも逸らせない。 そういえば鏡なんて見ていないから相当酷い顔をしていたかもしれない。 「…要、俺もお前に話したい事があるんだ」 「その前に、何か食べないと…兄さんの作り置きがあるから持ってくるね」 声をかける隙も無く、部屋を戻っていく要の背中を見ながら、また顔を見れて良かったと胸を撫で下ろす自分がいた。

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