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episode 13

「……!要…!!」 どこか遠くで彼の声がする。 大好きな彼の声。 「要!!」 目が覚めると俺はまた病室の真っ白なベッドの上だった。 横には焦る凌の姿と、しっかりと握られる手。 あぁ、酷くデジャブだ。 「……凌、」 「要っ…?どこか痛いのか?」 凌は俺の頬に手を添えて、流れていた涙を拭う。 あれ、なんで俺泣いてるんだろう。 「戻ってきたらお前が倒れてて、女がいたんだが、俺を見たら逃げていったんだ。もしかしてあの女に何かされたのか?」 凌の問いには何も答えられず、ただ頬に添えられた手に自分の手を重ねて譫言のように同じ言葉を繰り返すことしかできなかった。 「…凌、好き…凌が好きっ…俺は…凌が好き、大好き」 「要…?」 「好き、…凌が大好きなんだ」 俺の中でのこの感情はいつしか何よりも大きくなっていた。 溢れる涙が凌の手を濡らしていくのも知らないで、俺はそう言い続けた。 「…要、」 ぎゅっ、と抱き締められて一瞬呼吸が止まる。 ふわりと凌の香りがして、乱れた心が少しずつ落ち着いていくようだった。 「何かあったならちゃんと話してくれ。俺はお前の力になりたいんだ」 ✳ ✳ ✳ 倒れた原因は極度のストレス。 今までに思い当たる事はないかと医師に問われた時、俺はいくつか思い返した。 母の死、事故で起きてしまった凌との事、そしてあの女子生徒の言葉。 ストレスは自覚が無くても抱えてしまっているものだ。 俺は今まで何も無かった分、今になって一気にきたのかもしれない。 「……俺、何か間違ってたのかな」 「要?」 家に帰ると、凌は食事を作ってくれた。 たまに作ってくれる凌の食事はとても美味しいのに、今は喉を通らなかった。 「番になったら、ずっと幸せになれると思ってたんだ。…けど、幸せになる事がこんなに難しい事だなんて知らなかった。俺はただ幸せになりたいだけなのに」 「……要は、俺と一緒にいるのは嫌か?」 「嫌なわけない!…凌は、俺に子供がいるから?子供が出来ちゃったから番になろうとしてくれてるの…?」 答えは分かっていたのに、もう一度聞かないと不安で胸が引き裂かれそうだった。 いつからこんなに感情が歪んでしまったのだろうか。 「何年お前を想ってきたと思ってんだ。確かに子供が出来た責任はとるって言ったけど、子供ができる前からずっとお前の事を番にしたいと思ってた」 きっと凌は俺なんかよりもずっと。 「俺はちゃんと想いを伝え合ったつもりだったんだが、これじゃ足りないか?」 俺を見据える目はどこか悲しそうで、不安そうだった。 気まずい沈黙が続いて、結局凌の食事には一口も手をつけられなかった。

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