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ⅵ ③
居間から入る細い明かりだけを頼りに、春樹はゆっくり冬真の衣服を脱がせた。本当なら飢えた獣のように剥ぎ取り、白い肢体にむしゃぶりついて、本能に身を任せ滅茶苦茶にしてしまいたい。自分の中にそんな欲の獣を飼っていたとは微塵も知らなかった。
しかし獣にすべて任せてしまうわけにはいかない。そんな事をしてしまえば、何も知らない冬真は簡単に壊れてしまうだろう。もう二度と、無垢な笑顔を見せてはくれないだろう、澄んだ耳に心地よい声を聞かせてはくれないだろう。愛しくて、欲しくてたまらなかったものを、自ら壊してはいけない。
──春が欲しいなら全部あげる。
ああ、やっぱり、夢を見ているに違いない。
自分だけ裸では恥ずかしいと冬真があちこち隠してしまうため、春樹はインナーのシャツと一緒に寝間着を一気に脱いだ。特に鍛えてはいないが、質素な生活のおかげかビール腹とは無縁の体を晒す。冬真は春樹の体をみて頬を染め、瞳を輝かせる。
「春カッコイイ。ドキドキする」
「こんなおっさんをカッコイイなんて言うのは冬真だけだ」
「春はカッコイイよ。皆知らないんだよ」
「ふ……お前はカッコイイじゃなくて可愛いだな」
「む……」
頬を膨らませて拗ねる冬真の頭の横に春樹は肘をつき、跨いだ体を潰さないようそっと素肌を合わせる。ぴくりと身じろぎする冬真の額に唇を押し付ける。
「冬真、セックスって知ってるか?」
「ううん、知らない」
「だと思った……俺に冬真を全部くれるって言ったな。だったら、俺のする事に身を任せてればいいから」
「う、うん。わかった」
こくりと冬真が頷いたのを確認し、緊張に顔を強ばらせる唇を味わいながら、白い肌に掌を這わせる。唇を放せば、舌で掌を追う。小さな乳首を再びじっくりと捏ねれば、冷たい体がほんのり熱を帯びてくる。空いた手で冬真の頭を撫でながら、体を這わす掌をゆっくりと下半身におろしていく。
「はっ、あん……春、気持ちいい……もっと触って」
「触らないでとか言ったのは誰だっけな」
「ん……いじわる……」
「声、我慢しなくていいから、たくさん聞かせてくれ」
「うん……ん、あっ!」
掌に包んだ冬真の熱を強めに握り、上下に擦る。やがて先端からにじんだ液体が春樹の手に絡み、濡れた卑猥な音を立てはじめた。
「やっ、やだ、恥ずかしいっ!」
「冬真、可愛い……こんなに溢れさせて……手がぐちょぐちょになっちまった」
「やだやだ、そんな事、ぁふっ、言っちゃ……」
春樹は擦るスピードを上げ、乳首に歯を立てる。冬真は背中を仰け反らせ、どこにやったらいいかわからない手で枕を握りしめている。
「ああっ、やあっ! 変、へんへんっ! むずむずしてぐるぐるするっ!」
「出そうなんだな。いいよ、ほら、俺の手でいけよ」
「はっ……! うっ! 春……っ!」
冬真は無意識だろう春樹の手に合わせて腰を揺らし、一度大きく体を仰け反らせて盛大に白濁を放った。
「ぁは……は……なに……っ、これ……」
初めての射精だったのだろう、ぜいぜい息をしながら己の体から放った液体を呆然と眺めている。
「冬真……冬真、可愛いすぎだろ、お前……」
「春ぅ……これがせっくすなの? 気持ちよくって頭がほわほわするよ…」
「いいや、まだ俺がいってないだろ」
「んぇ…? ひゃっ! え? え? なになに!? なんでそんなとこ触るのさっ!」
「……俺はお前の中でいきたい。いいだろ? もう我慢できねぇ」
春樹は掌にまみれた冬真の白濁を掬い、後腔に塗りつける。最も敏感な場所を触られ、射精で弛緩していた体が瞬時に強ばる。
「え、え、まさか、春のそれ、オレのお尻に入れるとか、言うの?」
「察しがいいな」
「む、無理だよ! そんなの入んないよ!」
「大丈夫だ、ちゃんとほぐしてやるから……まあ、痛くないって保証はできねぇけど」
言って春樹はゆっくりと、人差し指を冬真の体内に埋め込む。冬真の体内は、どうしてだか外側よりも冷たいような気がする。
冬真は息を詰まらせ、目を白黒させている。
「う……は……たな……いょ……」
「何て言ってんだよ……」
「そんなとこ……汚い、よ……」
「汚くなんかねぇよ」
ゆっくり、ゆっくりと指を引き抜く。完全に出てしまう直前で、またゆっくりと埋め込んでいく。入り口の──正確には出口だろうが。緊張をほぐすために、指を上下に、左右に、出し入れを繰り返しながらほぐしていく。
「はぅ……あうぅ……」
「……どんな感じだ?」
春樹は白銀を梳き、ほんのり暖かい頬に口づける。恍惚で揺れる冬真の瞳が春樹を見て、唇に欲しいとせがむ。冬真をほぐす指を止めないまま唇を重ねれば、隙間から甘い声が漏れる。
「はふ、ん……よくわかんない、へんな感じ……腰のあたりがぞわぞわする」
「いい声出してるから、感じてるんだろ。ほら、どこがいいか言ってみろ」
春樹は今までの数少ない性行為の経験と、冬真に隠れて何度も観たゲイ動画で得た知識を総動員して冬真の中をかき回す。女性相手の経験が役に立つかどうかはわからないが、荒い息を吐く冬真を見れば、少なくとも無駄ではなかったらしい。
「わかんない、わかんないよ春ぅ……お腹ん中ぐねぐねして……あぅ」
春樹は一度指を引き抜き、指を増やしてゆっくり押し込む。あまり抵抗はなく、冬真は窮屈そうに呻いただけで痛がる様子はない。はやる気持ちを抑え、春樹はゆっくり冬真のなかを探る。
いつか観たゲイ動画で、今の冬真と同じようにベッドで乱れていた青年の様子を思い出す。その青年は髪を振り乱し、叫ぶような嬌声で観るものを興奮させた。あれは演技ではないと信じたい。どこかに女性と同じくポイントがあるに違いない。
と、春樹の指にこれまでとは違う感触が伝わる。柔らかい粘膜の壁の奥に、指を跳ね返すしこりのようなもの。単純な好奇心でそれがなにかまさぐってみると、冬真がこれまでとは違う反応を見せた。
「ひあやっ! ああっ!」
それを指で押し上げると、背中を跳ねさせ逃げるように腰をよじる。同時に、甘い叫び。甘い、甘い悲鳴。
「……ここか」
「やあ! あうあ! やだやだっ! そこやだぁっ!」
「嫌か? じゃあやめてやろうか?」
ぴたりとまさぐる指を止めると、冬真は荒い息をついて同じくぴたりと黙る。しかし一分と経たないうちに、もどかしそうに腰をモゾモゾとさせる。
まるで誘っているかのように。
「どうした……? 嫌だって言うからやめたんだぞ」
「……春……嘘。やめないで、もっと、そこ、さわって……」
「じゃあ、本当はどうなんだ?」
春樹は、見つけたしこりを連続で押し上げる。ノックをするように連続で叩いてみたり、マッサージするようにゆっくり擦ってみたり。
その度冬真の体は激しく跳ねる。自分の発する嬌声が恥ずかしいのか、途中自分の手で口を塞いだりしていたが、そのうちその余裕もなくなったらしい。シーツを握りしめ頭を振り乱している。
「ひああっ! あやあああ! きっ、きもちっ、きもちいっ! 頭、びりびりするっ、うぅああああっ!」
冬真は大きく背中をのけぞらせ、ほとんど悲鳴と言っていい程の嬌声をあげ体中を緊張させた。
顔は高潮し、上半身が斑の桃色に染まる。春樹の指を締め付ける体内は体の痙攣に合わせるように蠢く。叫び過ぎて乾き粘ついた口から荒い息をつき、潤んで輝く瞳で春樹を見つめている。少し落ち着いたのか痙攣が収まったかわりに、艶めかしく揺れる腰つきに春樹は息を呑んだ。
「……すごい。今お前、全身で俺を誘ってるぞ」
「はっ……はぁ……春……オレ、おかしくなっちゃった……頭がチカチカする……」
「気持ちよかったか?」
「うん……なんかね、体中に電気が走ったみたいで……まだチリチリする……」
冬真は熱を帯びた重い息をついて、かすかに震える手で春樹の肩を力なく抱く。目尻に溜まった涙が瞳を濡らし、わずかな光をきらきらと反射している。一層赤い唇に春樹は自分の唇を押し当て、音を立てて離した。
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