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第七話「愛しさ、埋め尽くされる」

支配している感覚、また同時に支配される感覚にも陥っている。感情を全部持っていかれてしまいそうな、そんな感覚だ。それが少し悔しくて、全てを飲み干す様に一滴残らず唇で搾り取っていく。その度に井上は足の付け根を震わせた。 「もう…離しぃ…や…。今更やけど…誰か来たらどないすんねん…」 そう言って井上は弱々しく浅野の肩を押した。余裕が無いのだろうか、いつもの口調と違って訛っている。素が出てしまう程に悦楽に溺れている。今此処では生徒と教師ではなく、一人の人間なのだと喜びすら溢れた。 「見せつけてやりゃいいじゃん。リアルな話、びっくりしてどっか行っちまうだろ」 「そういう問題とちゃ……ぅ、ん…」 鈴口に滲む白濁を吸い付きながら舌先で拭った後、漸く口を離してやる。ふにゃり、と力が一気に抜け凭れていた机にゆっくりと体躯を横たわらせ真っ赤に紅潮した顔を隠す様に両腕で其処を覆う。 「そんなん…ずるいわ。慣れ過ぎてるやろ…」 「褒め言葉だと受け取っておく」 浅野が経験したのは女だけではない。数こそ少ないが、男を抱いたことも数回はある。とは言え、俗に言う"慣れる"程抱いた訳ではないが、浅野は何に関しても呑み込みが早い為そう思われがちなのである。浅野にも少しの緊張は持ち合わせている。増してや、初めてこんなに深くまで恋に落ちる相手との行為だ、平常でいられる訳がないのだ。浅野はそのまま井上の下肢を開かせ少し前へと押して後孔を露わにさせると、唾液を含ませた舌でねっとりと其処を舐め上げた。その瞬間びくりと体を跳ねさせるのが伝わる。 「やめ…そんなとこ…っ、汚いて…!」 力が入らない体では抵抗も適わず成すがままだ。たっぷりと濡らした後、ゆるゆると舌先で窄まった入り口を解す様に動かす。ゆっくり割り入れようと試みると次第に侵入を許してきた。同時に次第に井上の自身がまた反応を示し始めている。浅野は己の反応する下半身に窮屈さを感じては片手で乱暴にベルトを外し前を開く。下着を少し下せば硬く成り果てた自身を緩く扱いて更に硬度を増させる。 「なぁ、後ろの経験あんの」 「そんなん、無いに決まってるやろ…っ」 焦りすら感じる。本当の事を口にしているのだと窺える。これが演技なら相当なものだ。それにすら喜んでいる。どちらが弄んでいるのかすら分からなくなる空気感に浅野は興奮している、はっきりと、確かに。漸く口を離してやると、己の中指と薬指に唾液を舌で塗りたくっていく。それが終わればいよいよ"本番"を匂わせる様に立ち上がり後孔にそれを宛がいゆっくりと挿れていく。苦しそうに浅野は眉間に皺を寄せ、同時に先程反応していた自身も少しだけ萎え始めた。すかさず浅野は腰を寄せて己と井上の竿を重ねて同時に扱く。萎えてしまわないように快楽で誤魔化しながら根本まで指を挿れ終えた。 「んん…っ、何か…変な感じ、や…」 違和感と与えられる悦楽に眉を寄せたまま小さく胸を上下させている。後孔は強く浅野の指を締め付けていて、そこから窺えるように体が強張っているのだ。同時に握り込んだ互いの自身を扱きながらゆっくりと内壁を掻く様に動かし入り口を解していく。その度に浅野は甘く息を吐露した。部屋に響く互いの少し荒れた呼吸が耳を支配していく。二人はそれにすら快楽を、興奮というものを覚えていく。もうすぐ、一つになるということに近付く瞬間に。 「どこだろうな…アンタのイイとこ…」 入り口は解れてきたが、何かを探る様に浅野は壁を掻いていく。井上は疑問符を小さく浮かべながらもどうにも朧げな頭ではそれを問う事もままならずに掻かれる度にひくんと腰を揺らした。 すると――――。 「…ひっ、ン…!」 ぷくりと膨らんだそこを掻いた瞬間、井上の体躯は跳ね上がった。と同時にもっともっとと体が求める様に浅野の指に柔らかく内壁が絡みついてくる。浅野は口端を妖しく持ち上げながら片目を伏せてみせた。 「おーけ。此処な」 そう言うや否や指を引き抜きながら腰を離しては下を向いて己の乾いてしまった自身へ唾液を垂らすとゆるゆると扱く様に濡らしていき、それを井上の後孔に宛がった。少し朦朧としている意識でその様子を見つめる井上が不安げに浅野を見上げる。腰を折り曲げ安心させるように額、目尻、頬へと口付けた後辿り着いた唇を柔らかく食んだ。 「痛ぇのは最初だけだ。力抜いて覚悟決めろ…」 重なる唇の間で優しくも鋭い囁きを落とせばゆっくりと腰を進めた。苦しそうな呻き声が少しだけ部屋に響く。それでも井上は嫌がったりしなかった。興奮している中、少しの余裕を持ち合わせた浅野は少しだけ疑問を抱いていた。何故、そうまでして自分を受け入れてくれるのか。お人好しに程がある、と。けれど次の瞬間、しがみ付く様に首にゆるりと両の腕を絡ませてくる井上の行動にそんなことなどどうでも良くなっていた。必死に自分を受け入れようとする井上の姿に浅野の中で愛しさが込み上げてくる、この上なく。 漸く根本まで挿れてしまえば包み込む暖かい肉壁の感触と心地良さに激しく動いてしまいたい衝動を抑えながら小刻みに入り口を解す様に腰を回した。 「ん…ン…浅野…く、ん…っ」 その声はもう溶けきっている。甘く、甘く浅野の鼓膜に響く。 「呼ぶなって…壊しちまいたくなるから」 今までこんなに優しく抱いたことはなかった。懸命に受け入れようとする姿に応えてやりたいと素直に思ったのだ。 もう、溺れきってしまっているのだと自覚している。どうしようもなく井上を愛しく思っている。 大切にしたい。 自分で埋めてしまいたい。 そんな欲で埋め尽くされている。 井上で、井上への愛で。

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