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第二章 客は、私一人。

「今日は最後の確認に来ました」  徹は、数枚の書類をテーブルに並べた。 「土地を担保に水原さんへは融資をしてきましたが、半年間ローンの返済がありません。そこで私の提案通り、この土地を綾瀬不動産に売却し、そのお金で名古屋の物件を買っていただきましょう」  淡々と、ビジネスライクに話す徹だ。 (父さん、そんなに資金繰りに困ってたのか)  カフェでは甘い表情なのに、今の徹は厳しい顔つきだ。 「悪い話ではないはずです。転居先も、ここと同じようにレストランを経営していた物件ですので、リフォームすれば余裕で再建できるでしょう」  やや顔色の悪い父が、声を絞り出す。 「しかし、リフォームするだけの資金が」 「そこは、私にお任せください。低金利で、ご用意いたしましょう」  そわそわしていた母が、早口で話す。 「下の子は、来年受験なんです。何かと、もの要りで」 「その時にお困りのようでしたら、ご相談ください。教育ローンもご用意いたします」  にっこり微笑む徹は、カフェでの笑顔に似ていた。  だがその腹の中では、牙をむいているに違いない。

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