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第二章・2

「そして……、樹里さんですが」  物腰は柔らかく、だが口調は厳しく徹は言った。 「お兄さんは、先だってのお話しの通り、うちに。綾瀬不動産へ就職していただきます。よろしいですね」 「えっ!?」  驚いて、樹里は父を見た。  うん、と頷く父。 「綾瀬さんのご厚意で、住み込みで働かせてもらえるそうだ。ありがたく受けよう」  そんな、本人に了承を得ないまま、そこまで話が決まってるなんて!  しかし、この家庭に居続けるよりいいかもしれない、と瞬時に樹里は考えた。  弟に金をむしられる上に犯され、父に暴力を振るわれ、母に無視される日々より、いっそ他人に世話になった方が。  それに、綾瀬さんは憧れの常連さん。 「よろしくお願いします」  樹里は、自然と頭を下げていた。

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