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第二章・4

 広い社長室は、ピカピカに磨き上げられていた。  重厚なデスクに、大きな椅子。  樹里は、ソファに掛けるように促されたが、それも抜群の座り心地だった。 「さて、水原 樹里くん」  そう、徹は切り出した。  返事をする間もなく、彼は流暢に述べ始めた。 「男性・Ωで、現在19歳。家計を助けるため高校を中退し、カフェ・ソレイユでアルバイトを始める。性格は温厚で素直。身長170㎝、体重53㎏」  なぜ、それを。  僕と綾瀬さんは、カフェで顔を合わせるくらいしか接点がなかったはずなのに! 「調べれば、いくらでも君のことは解るよ。決して恵まれた家庭環境ではなかった、ということもね」  実は、と徹は声を潜めた。 「君にここに残ってもらったことには、理由がある。借金を少しでも早く返してもらうために、風俗で働かせるつもりだった。もちろん、ご両親も納得済みだ」  さっ、と樹里から血の気が引いた。  父さん、母さん、いくら何でも酷い。  いくら僕がΩだからって、実の子を売るような真似を……。

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