16 / 105

第二章・6

「今は時代が変わった。先代は暴力団の看板を下ろし、不動産と金融業の会社を設立させ、私はそこの二代目だ」  しかし、先々代からのヤクザの看板を下ろしたつもりはない、と徹は言う。 「君に、この彫り物が触れるか? 樹里くん」 「……」  恐々と、樹里は身を乗り出した。  美しい。  体中に施された入れ墨は、樹里にとっては畏怖の対象ではなく美術品だった。  溜息をつき、指先で竜の輪郭をたどる。  徹はそれに満足したように、樹里の頭に手を乗せた。 「契約成立だ」  徹は衣服を整えると、再びソファに掛けた。 「私に尽くしてもらう、とさっき言ったが、できるね?」 「はい」  では、と探るような眼を徹は樹里に向けて来た。 「客は、私一人。樹里くんには、私だけの売れっ子になってもらおう」

ともだちにシェアしよう!