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第三章・8

 しかし、樹里のチョイスに徹は苦笑いした。  クセのない、ホワイトラム。 「カクテルのベースに、と買っておいたものだが……」  そしてグラスは、小さな小さなショットグラスなのだ。  度数の低い酒を、さらにちょっぴりしか飲ませてもらえないとは。 「寝酒は飲み過ぎると、かえって良くない、と聞いたことがありますので」 「解ったよ。今度は、私の負けだ」  喉で笑いながら、徹は切ない寝酒を飲んだ。 「この家にある書籍やパソコンは自由に使っていいから、樹里くんはいろいろと勉強するといい」 「はい。ありがとうございます」  何か失敗したらしいことは、樹里にも想像がついた。 (お酒の勉強、しなきゃ)  それと、コーヒーを美味しく淹れる勉強も。  そして……。 (セックスのやり方も、かな)  ショットグラスを干した徹は、樹里の肩に腕を回した。 「さて、初夜といこうか」 「……はい」  解っていても、声が小さくなる。  顔が火照り、身体がすくむ。  着なれないバスローブの裾をきゅっと掴むと、樹里は徹にいざなわれて寝室へ入って行った。

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