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第四章・8
「樹里。おい、樹里」
「ふぅ、んン……」
とろんとした瞼は、そのまま閉じてしまった。
後は、すうすうと安らかな寝息が。
「仕方のない奴だな」
この私に。
綾瀬組の組長に、情事の後始末をさせるとは!
こいつはいずれ大物になる、などとぼやきながら、徹は散々汚れた体を自分で拭いた。
もちろん、ぐちゃぐちゃの樹里の肢体も、丁寧に拭きあげてやった。
「んん、ぅん……、綾瀬さん……」
「いつ、私のことを『徹さん』と呼ぶようになるのかな、樹里」
すでに、『樹里くん』が『樹里』になってしまった自分がここにいる。
こんなに早く、心の中にまで飛び込んできた人間は初めてだ。
「下手な感情は生まないように、と思っていたが」
ただの玩具。
情夫のつもりが、そうはいかない危うい心地を、徹は味わっていた。
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