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第五章・5
スーツ姿でヘアサロンを訪れた樹里に、ここのスタッフも困惑した。
「カッコいい髪形にしてください!」
「お客様、私服はどのようなものを着られますか?」
スーツに似合う髪形でキメても、それを脱いだ時にカッコ悪ければ仕方がない。
「えっと。私服はまだ買ってなくて……」
でも、あまり派手な格好はしません、との樹里の返事に頷くと、スタッフはカタログを出してきた。
「お客様の髪質でしたら、こちらあたりがお似合いかと」
示されたものは、爽やかなスマートマッシュウルフ。
モデルが大きめのピアスを付けているところが気になったが、樹里はこれでお任せすることにした。
「あの。ピアスは付けなくてもいいんですよね?」
「それはお好みで結構ですよ」
髪を整えてもらう間、樹里は考えていた。
(やっぱりピアスとかチョーカーとか、アクセサリーもあった方がいいのかな)
綾瀬さんは、どんなファッションが好みなんだろう。
それは訊ねてからにしよう、と決めると、何だか眠たくなってきた。
(綾瀬さん……、僕、カッコよくなれたでしょうか……)
お客様、と起こされて鏡を見ると、驚いた。
「あ、カッコいい!」
「ありがとうございます!」
ここでもカードでスタッフを驚かせた後、樹里はサロンを後にした。
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