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第五章・7
嬉しいな、と笑う樹里は、徹にはやたら眩しかった。
好きに使え、と渡したカードで、スーツを買うとは。
「今度は、オーダーメイドのスーツを買ってやろう」
「いいんですか」
「ああ。一緒に採寸に行こう」
一緒に、というところに樹里は舞い上がった。
綾瀬さんとお買い物できるなんて!
「あの、他にも買ったものがあるんです。早く上がってください」
「おやおや、何だろうな」
キッチンに連れて行かれて見たものは、コーヒーを淹れるための道具類だった。
「綾瀬さんのお好きな、苦味のある豆も買いました!」
「自分のものを買えばよかったのに」
しかし、その真心は素直に嬉しい。
徹は表情を緩めると、スーツを脱いで樹里に渡した。
「私はシャワーを浴びるから、その間に一杯淹れておいてくれ」
「はい。あの、背中は……」
「遅いから、シャワーだけで済ませよう。今夜はバスルームへ来なくてもいいよ」
「はい!」
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