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第五章・8
シャワーを浴びながら、徹は樹里の屈託のない笑顔を思った。
「あんなに綺麗な状態の少年を、私なんかが選んでよかったのか?」
父親の借金のカタに、風俗に売るはずだった少年。
行きつけのカフェでお気に入りのバイトくんだったため、思いつくまま囲ってみたが。
極道に手を付けられた人間は、いずれ嫌でも汚れていく。
樹里を、そんな目には合わせたくないが……。
答えの出ないまま、徹はバスを出た。
リビングに進むと出迎えてくれたのは、芳しいコーヒーの香り。
「寝酒の代わりに、ブランデーを入れてみました」
「進歩したなぁ」
ちゃんと、ホイップクリームも乗せてある。
一口飲むと、コーヒーの深い苦味とブランデーのほろ酔いがうまく溶け合い、徹の舌を喜ばせた。
「うまい」
「嬉しいです!」
しかし、と徹は樹里を見た。
「君は、飲まないのか? 自分の分は?」
「僕、19歳ですから。お酒は、まだダメです」
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