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第六章 嬉しくて幸せで

 徹のマンションに住まわせてもらい、樹里は朝9時に事務所の社長室へ出勤するようになった。 「おはよう」 「おはようございます」  その時刻、徹はすでにデスクで新聞を読んでいる。 「ちょうど良かった。コーヒーを頼む」 「はい」  サイトで『おいしいコーヒーの淹れ方』を勉強した樹里の腕は、少しずつ上がって行った。  少しでも綾瀬さんに快適を提供したい、の一心で樹里は働いた。  社長室の掃除に、エアコンのフィルター交換。  花を飾り、アロマを焚いた。  その一つ一つに気づき、褒めてくれる徹だ。  樹里もその都度嬉しくなって、毎日一生懸命働いた。  そしてある日、気づいた。 「この部屋、何か寂しいと思ったら、絵が無いんだ」  本来なら、美術系の学校に進学したいと考えていた樹里だ。  その殺風景さに気づくと、どんどん気になっていった。

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