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第六章・2
「名画はどれも高いなぁ」
ネットで絵画を探していた樹里は、こぼした。
巨匠の作品なら億の値が付いているし、美術館から顔を出さないものも多くある。
現代の著名な画家の絵も、まず500万以上は軽くする。
さすがの日給5万円も、まだそれを購入するには届かない。
「でも綾瀬さんに、絵を買いませんか、って言うのはいやだな」
ちょっと、驚かせてみたいのだ。
自分を過酷な環境から救い出してくれた徹に、サプライズで恩返しがしたいのだ。
「よし、自分で描こう!」
子どもの頃から、絵を描くのは好きだった。
先生も褒めてくれたし、高校中退までずっと美術部に在籍していた。
元・自宅の自分の部屋にも、描いた小品を数点飾っていた。
「抽象画にしようかな」
見たものをそのまま描く具象も得意だが、好きな方は抽象画だった。
特に、カンディンスキー。
硬質でクリアな印象の作品が多い彼だが、『同心円のある正方形』のように、温かみのあるものもある。
徹への好意を、柔らかく明るい色彩と形で表したかった。
その日の夕刻、樹里は画材をたくさん買い込んでマンションへ帰った。
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