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第七章・3
「綾瀬さんは、そんな人じゃありません!」
小さいが、意志のこもった樹里の声に、毛利は驚いたようだった。
「珍しいね。普通のΩなら、ここで泣いてるとこだけどね」
だが、と毛利は再びカルテに向き直った。
ペンを走らせながら、こう言った。
「君はあいつの愛人、情夫だ。そこを忘れてると、後で痛い目をみるぞ」
樹里は、歯を食いしばって涙をこらえた。
ペット、愛人、情夫。
僕は、綾瀬さんの玩具なの?
『ペットは飽きたら捨てる』
僕は、飽きたら捨てられるの?
綾瀬の名前を心の中で、何度も何度も唱えながら、樹里は涙を必死でこらえた。
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