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第七章・4
夜、帰宅した徹は、真っ暗な室内に驚いた。
「樹里?」
奥のアトリエから、細く光がもれている。
夢中で、絵を描いているんだな。
そんな軽い気持ちで、シャワーを浴びた。
途中で樹里が入ってくるかも、との予想は外れ、徹は一人で風呂から上がった。
こんなことは、初めてだ。
「そう言えば、朝に熱っぽいと言ってたな」
具合が悪いのか、と心配になった。
そして、そんな自分に驚いた。
体調不良は、自己管理不行き届き。
これまで、どんな相手に対しても、それが囲った愛人でも、そう言って突き放していたというのに。
アトリエを覗くと、もう明かりは消えている。
代わりに、寝室の照明が点いている気配が。
「思い過ごしか」
セックスをする元気があるなら、大丈夫だ。
そして、ドアを開けた。
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