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第七章・5
「樹里、いるのか?」
樹里はベッドに横たわり、背中を向けていた。
そして、彼に近づく毎に、身にまとわりつくΩのフェロモン。
「綾瀬さん……」
身をよじらせてこちらを向いた樹里の眼は、欲情している。
まさか、発情?
徹はベッドに腰かけ、樹里の髪を撫でた。
それだけで樹里は、徹の腕に身をもたれさせてきた。
「病院に、行ってきました」
「私の名刺は、持って行ったな?」
はい、と熱く蕩けそうな樹里の返事。
口を開くと濃厚なフェロモンが吐き出され、徹は軽く眩暈を感じた。
「お薬、少し強くしてくださいました」
「それにしては、おかしい。発情してるみたいじゃないか」
「今夜は、お薬を飲んでいません」
なぜ、という徹の問いには答えず、樹里は逆に訊き返してきた。
「毛利先生は、綾瀬さんとどういう関係なんですか?」
「悪友だ。口は悪いが、腕は確かだぞ」
そこで徹は、思い当たった。
「毛利に、何か吹き込まれたな? そうだろう」
途端に、樹里の瞳から涙がこぼれた。
「ペットは飽きたら捨てる、って。綾瀬さんは、僕に飽きたら捨てるんだ、って」
ぽろぽろと涙をこぼす樹里を、徹は優しく抱きしめた。
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