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第八章・6
季節は移ろい、樹里が徹の元で暮らすようになってから三ヶ月が経っていた。
生活にも慣れた樹里は、徹の御供で外回りの現場に出る仕事を仰せつかっていた。
「まぁ、樹里とランチしたい時だけだがな」
アウディを運転しながら、徹が軽口を叩く。
「お仕事は真面目にやってください、綾瀬さん」
「相変わらず堅いな、樹里は」
だが、その変わらないところが魅力だ、と信号待ちの時に徹は素早く樹里にキスをした。
「ひゃっ!」
「何て色気のない声だ」
「も、もう! やめてください!」
気の進まない現場へ向かう道中も、樹里と一緒なら紛らわせる。
そんな笑顔の徹だったが、いざ仕事となると情け容赦なかった。
樹里は付近のカフェに待たせて、徹は無機質な声を出していた。
「もう10ヶ月も振り込みがされておりませんね、中島さん」
「このところ売り上げが下がりっぱなしで。来月には、必ず」
「確か担保はこの土地、でしたか」
「待ってください! 今、ここを失うわけにはいかないんです!」
それは勝手なそちらの都合でしょう、と徹は冷たく突き放した。
「期限は一週間。10ヶ月分の入金が無ければ、この土地は綾瀬不動産のものになります。よろしいですね」
「従業員の生活が!」
「うちにも、従業員はおりましてね」
捨て台詞を残し、徹は小さなレストランを後にした。
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